引き留お前のこ

俺を呼ぶ夏輝の空耳まで聞こえる。ちくしょう、どこまでも未練な俺だぜ。
諦めな、新しい旅立ちに涙は禁物だぜ。生きていれば、またどこかで会えることもあるだろうよ。その位の夢を見てもいいじゃないか。
束の間の飼い主、夏輝、感謝してるぜ。あばよ。
俺は思い出の染み付いたこの町を出て、父ちゃんと一緒に行くんだ。
いつか、苦み走ったいい男になった俺を見ても惚れるなよ。

俺は父ちゃんの顔を見た。
苦み走ったいい男の父ちゃんは、後悔するようなことだけはするなよと言った。父ちゃんも神さまの端くれだけあって、何でもお見通しだ。

「心の中でいくら思ったって、人間は下等な生き物だから、おまえの気持ちは伝わらないぞ。ナイト、夏輝とこれでお終いにする気なら、きちんと別れを告げるのも男の甲斐性だ、行って来い。」

でも……、もう一度あの冷たい夏輝だったらどうしよう。
大好きな夏輝にあんな顔をされる位なら、もう逢わずに別れた方がいい……。もう一度あんな夏輝を見てしまったら、俺は……きっともう立ち直れない。
父ちゃんに背中を押されても、暗い考えしか浮かばなかった。……夏輝。俺、本当にとが、大好きだったんだ。
不安な俺を、夏輝の声が一気に払しょくした。

「ナイト!オージービーフのステーキ買って来たよ!一緒に食べよう!」

「オ……オージービーフ……ッ!?」

俺の食べたい物ランキングで、燦然と一位に輝く憧れのオージービーフ(赤身の安い方)のステーキで、夏輝が俺をめようとする。でも、もう大人の階段を昇った俺は、オージービーフのステーキにも揺らがないんだ。

「もう、いいよ。文太と一緒に仲良く暮らせよ。夏輝はもう、俺がいなくてもやっていけるだろ。短い間だったけど、お世話になりました。ありがとう、夏輝。」

「ナイトは?……俺がいなくてもナイトは一人で眠れるの?平気なの?」

俺は黙って、夏輝を見つめていた。一人で眠れるかどうかなんて、寝てみなきゃわかんないじゃないか。

「……八つ当たりしてごめんよ、ナイト。俺がばかだったんだ。だって、ナイトがそんな可愛い子になってるって思わなかったし。俺、文太の恋人だと勘違いして、ナイトにやきもち焼いたんだ。本当にごめん。」


カテゴリー: 未分類 | 投稿者kangery 13:15 | コメントをどうぞ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">