子供の英語学習と脳の関係/慈性幸佑

英語などの外国語を習得するうえで、年齢は大きく関係します。

大人が一念発起して外国語を学んでも、子供のころからその言語に接して育ってきた人にはかないません。

では、なぜ子供のころから学んだ方がいいのか、外国語を学ぶときに脳の中ではどんな変化が生まれているのか、こうした脳研究から新しい学習方法が生まれるかもしれません。

◆6歳までに

言語獲得の爆発的なピークは6歳ごろまでにあるとよくいわれています。

中でも早い時期に学習を始めた方が有利なようです。

高度難聴者に対する人工内耳手術の経験から、ある医学部の専門医師は「5、6歳までに手術をするかしないかで、自然な発音や話し方などに歴然とした差が出ます。さらに1歳半の時と4歳の時で手術の効果を比較すると、1歳半の方がいい。おそらく0歳から2歳ぐらいまでに聴覚はすごく発達しているのでしょう」と指摘します。

これまで約2000人の子供たちの保育を英語でしてきたインターナショナルプリスクールの園長も「2歳ぐらいまでに英語に接し始めた子供は非常に自然な英語の使い方をするようになる」と話します。

「国際言語」の英語については早期教育への関心も高くなっています。

しかし、母語の日本語がしっかりしていないうちから英語を教え込むと、どちらも中途半端になる可能性はないのでしょうか。

言語脳科学を専門にする東大教授は「外国では複数の公用語を持っている国もあります。外国語をネイティブ・スピーカー並みに使えるようになってほしいのであれば、少しでも早くその言語が使われている環境で習得を始めた方がいい。しかし、そこまで必要がないのであれば、母語で本を読んだり、話をしたり、いろいろな勉強をすることの方が大切かもしれない」とみています。

◆シナプス可塑性

外国語を習得するために、少しでも早期に学習を始めた方が有利なことは、脳研究からはどう説明できるのでしょうか。

1つの考え方は「シナプス可塑性」です。

脳内で伝達される情報は、神経細胞の細胞体から伸びた軸索を通って神経終末に達し、ここから次の神経細胞の樹状突起という部分に化学物質で受け渡しされます。

このつなぎ目を「シナプス」と呼びます。

言語獲得の爆発的なピークがある時期、つまり「感受性期」はこのシナプスに柔軟性があり、神経回路網がいろいろと組み直されるというわけです。

理化学研究所脳科学総合研究センターは「感受性期には、シナプスに複数の入力があるうちの弱い方が脱落し、強い方で神経回路網を作っていきます」と話します。

感受性期には習得させたい言語の刺激を大量に与えることが重要というわけです。

研究では、感受性期に強い刺激を与えると、脳の神経細胞でつくられた「神経栄養因子」が軸索を通り、次の神経細胞に移ります。

すると情報を受け取る樹状突起をたくさんつくり、神経回路網ができやすくなるといいます。

◆ブローカ野

上記の東大教授の先生たちは以前、東京都内の日本語を母語とする右利きの中学1年生14人(いずれも13歳)に対し、英語と日本語の両方で動詞の原形を過去形に変える文法判断などの課題を与え、回答する時の脳の反応を画像検査で調べました。

結果は英語の方が日本語より難しいため、反応した場所は多かったが、共通して最も強く活性化していたのは、左脳の「ブローカ野」といわれる部位でした。

その後、教授らは日本語を母語とする右利きの東大生15人(いずれも19歳)に対し、英語の文法判断を求めるテストを実施してみました。

結果は、英語の熟達度の低い学生の方が左脳のブローカ野が強く反応しており、熟達度の高い学生の方が反応は落ち着いていました。
また、熟達度の低い学生のブローカ野の反応は、先に実施した中学1年生の英語の課題での反応に似ていました。

ブローカ野の反応で、英語の熟達度がわかるとすれば、ここから何か有効な学習法が開発されるかもしれません。

フランス人の外科医、ブローカ(1824年-1880年)は1861年、言葉の聞き取りはできるが、話すことができない「運動性失語患者」の脳を死後に解剖し、左大脳半球の前頭葉の部位に損傷があるのが原因であることを学会で発表しました。

言語の機能が脳の一部に局在することを最初に示し、この発表が近代脳科学の幕開けになったとされます。

この部位が「ブローカ野」と呼ばれています。

 

慈性幸佑

参考:https://kamittochuuch.com/study/

 

 


カテゴリー: 子供の外国語教育 | タグ: , , | 投稿者慈性幸佑 15:04 | コメントをどうぞ