ドルバス率いる王女軍が

ドルバス率いる王女軍がパタンパに進駐したのは貴族軍が姿を現す前日の事であった。貴族軍はとことんツキに見放されていた事になる。もっとも、先にパタンパに辿り着いていたとしても、彼我の絶対的な兵力差は如何ともし難かったであろうが。

ドルバスは捕虜を抱えたままパタンパに腰を据え、ヘルデンが王女親衛隊のみを率いてモルフィネスへの報告の為ゲッソリナに向かった。 貴族軍が降伏した翌日、モルフィネスは貴族軍が降伏した事はまだ知らずに王宮で執務を取っていた。

南方で勢力を拡大中のキューテンモルガンの側近として潜り込んでいるクラックからの情報では、その麾下の兵士数は五万前後にまで膨れ上がっているらしい。

今回モルフィネスはそのキューテンモルガンに貴族軍討伐要請の形で使者を送っていた。モルフィネスの計算ではキューテンモルガンが要請に応じて兵を率いてパタンパに参軍しても、その頃には貴族軍はとうに姿を現してパタンパに進駐させた自軍との決着が着いているはずであった。つまりキューテンモルガンの援軍は貴族軍との合戦に間に合わないのである。

では、何故モルフィネスはキューテンモルガンに使者を送ったのか。キューテンモルガンの腹の内を探り、その対処を巡る政治的判断を下すためである。

それ故、使者にはクロノ原の勝利の結果王女軍の勢力がどうなっているか、太子軍の勢力がどうなったか、キューテンモルガンに詳しく伝えた上で参軍を要請するように命じてあった。

(さて、どう出るか。・・・・・・しかし、戦はもう良い。タゴゴロームのハンベエの所へ赴いた時には、我が戦術構想を実現させる野望が心に渦巻いて血の滾りが抑えきれぬほどであったが、もう合戦はしばらく控えたいものだ。少なくとも内乱は。)

一人王宮の執務室でモルフィネスはそんな事を考えていた。

空の青はあくまで明るく所々に浮かぶ雲は真っ白、良い天気であった。風は乾いて肌に心地良い。モルフィネスは部下を留めて一人、ゲッソリナの街に散策に出掛けた。総参謀長の身で護衛も付けずに出掛けるとはこの策士にしては無用心な振る舞いであるが、働き詰めで息が詰まっていたのか、それともクロノ原の大勝で内乱も峠を越えたと少し気を緩めていたのか。珍しい事であった。

街を歩く内に例のザック達孤児連が巣くう集会所の有るゴーストタウンに足が向いていた。ゲッソリナ市街を警戒中の王女軍兵士も孤児達の身の上に同情するものが有るのか、ちらほらと巡回している様子である。

ふと見れば、モルフィネスの前方十四、五メートル先を見知った姿が歩いていた。肩から画板を提げたヒョロヒョロの兵士姿は何とパーレルであった。

その背中に眼を遣り、モルフィネスはその衣服の下にX字の火傷の跡を思い描いていた。去んぬる日、モルフィネスが理不尽な腹立ち紛れに与えた傷である。

この傷について、モルフィネスは人生の途中までは全く忘れていた。思い出したのは、バトリスク家を勘当になりタゴゴロームへ自分を売り込みに行った際にハンベエに言われた時であった。バトリスク一門を勘当になる前の特権貴族意識の強かった頃のモルフィネスは、それについて歯牙にも掛ける事は無かったが、いざ自分の才覚のみに全てを賭ける身となると半生を振り返る事がしばしば有った。

(何と愚かで、醜悪な我が身であったか。)

と、この冷酷非情、自らを高しと値踏みして恥じない鉄仮面も思い起こして天に地に言い訳の出来ない思いを懐いていた。元々、自らに美しさを求めるナルシストの一面を持つ男であった故に、その記憶は許し難い愚考として胸に刻み付けられていた。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者jennifer92 00:22 | コメントをどうぞ

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