彼の家の最寄りの駅で降り

彼の家の最寄りの駅で降り、駅の近くのスーパーに立ち寄る。普段会うときは外食が多いため、私が手料理を振る舞う機会は少ない。正直、料理には自信がない。確実に久我さんの方が手際も良いし上手だ。それでも、少しでも喜んでもらえるのなら、苦手な料理にも挑戦しようと思える。恋が、こんなに人を変えるものだとは思わなかった。何を作るか悩みながら買い物するのは楽しい。自分一人のために作るものだったら、こんなに悩むことはない。和食にするか洋食にするか、無針埋線效果中華か……。スーパーの中を何度も周り、買い物を終えて彼のマンションに着いた頃にはだいぶ時間が経ってしまっていた。「やばっ!もうこんな時間……早く作らないと」バッグからキーケースを取り出し、貰ったカードキーを差し込んでオートロックを抜ける。エレベーターに乗り上に向かう間も、私は少しドキドキしていた。そして、誰もいない彼の部屋に足を踏み入れた。「お邪魔しまーす……」合鍵を使って彼の留守中に部屋に入るという特別感に、少し酔いしれてみたけれど、すぐに我に返り支度を始めた。「まずはお米を炊いて、それから肉をこねて、お風呂もすぐ入れるようにしておいた方がいいよね……」独り言を延々と呟きながら、お米を炊き、お風呂掃除を軽く済ませ、今日の夕食のハンバーグ作りに取り掛かる。「どれぐらいの大きさがいいかな……」料理って楽しい。初めてそう思ったかもしれない。相当手際は悪いけれど、どうにか夕食を作り終えたところで、タイミングよく久我さんが帰宅した。「ただいま」「おかえり。ご飯、ちょうど今出来たの。ナイスタイミング!すぐに仕上げるから、食べよ」すると帰宅したばかりの彼は、キッチンにいる私のそばまで来て頬を緩めた。そして、私の口の端に指先で触れた。「味見したの?ソース付いてるよ」「うわ、恥ずかしい……ありがとう」「何か、こういうのっていいね」久我さんは、指先に付いたソースを舌でペロリと舐めた。その仕草からは信じられないくらいの色気が溢れ出ていて、私は彼の行動から目を離せなかった。「美味しい。食べる前に、着替えてくるよ」「あ……うん、わかった」もう、どうしてこの人はこんなに簡単に私を翻弄するのだろう。いまだに見とれてしまうなんて、どれだけ好きになってしまったのか。どうにか気持ちを切り替え、私はせっせと作った料理をテーブルに運んだ。この日の夕食は、一枚のプレートにハンバーグとオムライス、それからシーザーサラダと三種類の焼野菜を乗せた。スープは余った野菜をたっぷり入れて煮込んだミネストローネだ。全部、ネットでレシピを見ながら作ったけれど、こうして見ると見映えは悪くない。ただ、オムライスの卵がうまく半熟にならず、若干固まってしまったことは悔やまれる。「凄いね。全部美味しそうだ」「オムライスが思ったよりボリューム凄くなっちゃったの。多かったら残していいから」「いや、ありがたく頂くよ」滅多に作らない手料理は、どうやら久我さんの口に合ったようだ。何度も美味しいと言いながら、全てたいらげてくれた。私の作った料理を口に運ぶ彼を目の前で見つめながら、思った。こんな日が毎日続けばいいのに、と。本気でそう願ったのだ。「卵って、どうやればトロットロに出来るんだろ。火加減が難しいのかな」「僕はこれくらい火が通ってる方が好きだけどね」「そう?それなら良かった」ボリュームたっぷりのプレートを、結局私も完食してしまった。今度は何を作ろうか。そんなことを考えながら、私は食器を手に立ち上がった。「ねぇ、今日はワインにする?それとも日本酒?たまには芋焼酎もいいかな」「蘭が決めていいよ」食後は大体晩酌と決まっている。冷蔵庫の中から美味しそうなカマンベールチーズを見つけ、今夜は一瞬でワインの気分になった。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者laurie6479 19:41 | コメントをどうぞ

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