日別アーカイブ: 2021年2月24日

そんな敵の待ち構えている所へ

そんな敵の待ち構えている所へ、寡兵をもって攻めて来るほどには馬鹿じゃないだろうとニーバル達は考えたのである。だが、ハナハナ山に後一日という所まで進軍したところで、斥候から報が入った。敵と思われる軍が、ハナハナ山の後方にあるアダチガハラの野に陣を敷いていると云うのである。凍卵「どんな軍だ。とニーバルが尋ねた。この場合、ハンベエ達タゴロロームの兵士達以外に陣を敷くような軍勢は考えられないにも拘わらず、思わずニーバルはそう質問してしまった。それ程、意外であったようである。斥候の言うには、甲冑を纏った美しい女人の描かれた旗が林立しているという。「甲冑を纏った女人・・・・・・王女エレナか。・・・・・・」奇抜な旗であった。ニーバルはしかし、旗にはさほどの興味を示さなかった。「人数は?」二万、多くても三万、と斥候は答えた。「・・・・・・、何故敵がそんな所に陣を敷いているのか分からないが、我が方は五万だ。ハンベエめ、運が尽きたな。」ニーバルは薄笑いを浮かべた。ニーバルの率いる軍勢は、ゆっくりと進軍して二日後の夜明けとともに、アダチガハラ平野に入って陣を敷いた。しきりに斥候を出して探らせたが、タゴロロームの陣地は静まり返って、動く気配がない。ニーバルの軍勢が近付いて来たのに気付いていないはずはない。進軍中も敵方の斥候らしい者が行き来していた。敵が隙を突いて攻撃して来るなら、進軍の途上か陣を整えている今この時のはずであった。しかし、敵方は静まり返って何の動きも見せない。不気味である・・・・・・とは、ニーバルは考えなかった。所詮は烏合の衆に素人司令官、いすくんで動けないのだろうと思った。個人的武勇なら群を抜いているのだろうが、兵を動かすには全く別の資質が要る。士官達に見放されるような男に軍を統べる事など出来ようはずもない。ニーバルは努めてそう考えていた。いやはや、何故ハンベエの敵に回る人間はこんな風に物事を考えようとするのだろう。一見強気そうに見えるその姿勢は、翻って見れば逆に、ハンベエという敵の恐ろしさに震え上がり、猫に追い詰められた鼠が思考停止した揚げ句、無用の勇を振るおうとしているかのようであった。いやいや、それでは鼠に失礼であった。猫に追い詰められた鼠は生きる事に必死であり、その行動に何の邪念もないはずであるが、ニーバルのハンベエを見下そうとする心には真実から目を逸らそうとする怯懦が透けて見えるのであった。人間の持つ虚栄心がそうさせるのであろうか。タゴロローム軍が手を出して来ないまま、ニーバルの軍勢は布陣を終えた。両者は僅か三百メートルほどの距離を置いて対峙する事となった。ニーバル側の軍勢が陣を敷き終えると、待っていたように、タゴロローム側が動きはじめた。『甲冑を纏った美しき女人の旗』、その旗が粛々と動き出したのである。タゴロローム側は旗をたなびかせ、自軍の陣地から百メートルほど前衛兵士を前に進めた。手に手に弓を携えている。弓部隊が前衛のようだ。彼等兵士に囲まれるようにして高さ五メートル程の塔が進んで来た。ニーバル側から見ても、その塔は目立つ物であったが、ニーバル軍の兵士は何も感じなかった。何だありゃ、上に人が乗ってるみたいだが、何をするつもりやら、くらいに思っただけであった。これこそ、ロキの発案によって作られた『測射の塔』であった。タゴロローム側から弓兵士が進んで来たのを見て、ニーバルは自軍からも弓兵士を前に出すように命じた。敵は存外芸がない。正面から戦うつもりのようだ。とニーバルは笑った。

カテゴリー: 未分類 | 投稿者laurie6479 18:43 | コメントをどうぞ