泣きそうな顔で、ギュッとしがみつく

「…っ」

 

泣きそうな顔で、ギュッとしがみつく。

 

牙蔵は醒めた心で、微笑んだ。

 

「んぁ…っ」

 

姫がおさまったところで、またゆっくり動くと、我慢できない吐息が姫の口から漏れた。

 

カタン…と襖の向こうで音がする。

 

「…姫様?」

 

侍女の声だ。

 

牙蔵は少しおどけるように目を開き、わざと襖の方を見てから首をかしげて美和を見つめた。

 

『どうすんの?俺は別にばれてもいいけど』というように。

 

美和は焦って、赤くなって声を出す。

 

「だ、大丈夫です、何も」

 

「姫様?さっきから何か変な音が…入ってもよろしいですか?」

 

「ダメ!なりません」

 

美和が声を張ったところで、グッと腰を推し進める。

 

「…んうっ!」

 

涙目で牙蔵を見上げる美和に、牙蔵は意地悪く微笑んだ。

 

「姫様?どうかされましたか」

 

「っ…少し、1人にしてください。…泣いて…っ…いたのです」

 

「…姫様…」

 

「お願いっ…今日だけ…は」

 

「………わかりました…」

 

侍女が次の間から外へ出て行く気配がした。

 

侍女が起きているのに、加減なく美和を攻めた牙蔵を、美和は恨めしそうに見つめる。

 

「意地悪なお方…」

 

「よく言われる」

 

牙蔵は姫を抱え起こして後ろ向きに寝かせた。

 

「…何を…」

 

「気持ちいいこと」

 

そのまままた繋がると姫はすぐにビクビクと痙攣した。

 

「…あっ」

 

おさまる前に動くと、苦しがってジタバタと手足を動かす。

褥に押さえつけて、上から攻める。

 

「んあっ…あ…あ…あ…」

 

何度も痙攣して、姫はぐったりとなった。

 

牙蔵は姫からスッと離れて、その背中を撫でる。

 

 

「…あなたの…お名前を」

 

荒い息がおさまる頃、姫はとろんと潤んだ瞳で牙蔵を見上げる。

 

「…」

 

答えない無表情な牙蔵を美和は見つめる。

牙蔵の着物は乱れていない。最中も、息さえ乱れていなかった。服を全て脱いでいるのは、自分だけなのだ。

 

「…あなたは…悪い方なの?」

 

牙蔵は片方だけ口角を上げた。

 

「そうだね」

 

美和はガバッと起きて、牙蔵にしがみついた。

 

「だとしても…いい。

 

あなたが誰でも…いい。

 

また、会えますか…会って、くれますか…」

 

「…」

 

牙蔵は無表情で、ピクリとも動かなかった。

 

「もう遅い。…眠るといい」

 

スルッと頭を撫でると、とたんに美和の目がトロンとなった。

 

自分に体重を預けて、気を失うように眠りに落ちた美和を、牙蔵はゆっくり褥に横たえた。

 

「…」

 

 

月が雲に隠れる頃ーー闇に紛れて牙蔵は沖田の城を出た。

 

屋根から塀、塀から大きな木に飛ぶ。

 

ーーと

 

「…」

 

城の庭から、まっすぐこちらを見ている男と視線がぶつかる。

 

「ーー…」

 

沖田の忍だ。

 

雰囲気から、かなりの手練れなのはわかった。

 

「…」

 

牙蔵は視線を絡めて、臨戦態勢に入るーーが、

 

その男は、視線を外すと、踵を返して行ってしまった。

 

「…」

 

深追いは無用ーー牙蔵もまた、音もなくその場を後にしたーー。ーーーーー

 

軍議は遅くまであったようで、それでも夜に、仁丸と信継が揃って詩の離れに来た。

 

きちんと3人分用意された食事。

 

信継が、包みを手に、詩に渡す。

 

「桜、これ…やる」

 

「あ…ありがとう、ございます」

 

両手で受け取ると、仁丸が信継を睨んだ。

 

「桜、当然僕からもあります」

 

仁丸からも、包みを渡される。

 

「ありがとうございます」

 

「先に、開けてみてください」

 

仁丸からウキウキした表情で言われ、詩は包みを開ける。

 

「…」

 

中身は、髪結いに使える、美しく編まれた幅の広い組みひもだった。

色とりどりの糸が、丁寧に編み込まれている。

 

「母からです。『寵姫の桜姫によろしく』と」

 

「とてもきれい、です

 

仁丸様のお母様が作って下さった大事なものを、

 

私がいただいてもよろしいのでしょうか…」

 

「もちろんです」

 

仁丸が胸を張る。

 

「ありがとうございます、大切にします」

 

詩は頭を下げた。

 

「ま、俺のも開けてくれるか、桜」

 

信継が詩をじっと見る。

 

詩は頭を下げて、信継の包みも開ける。

 

「…」

 

中身は、たくさんの種類の、美しいお菓子だった。

 

「きれいですね…こんなにたくさん…ありがとうございます」

 

信継がボソッと呟く。

 

「ああ。

 

桜は…その、アレだからな」

 

「…?」

 

詩が首をかしげると、信継が赤くなって鼻を掻いた。

 

「その…まだ子どもみたいに…カラダが小さいからな…

 

もうちょっと、…成長しないと」

 

とたん、何を言われたかわかって、詩は羞恥心で、ボッと赤くなった。

ほんの昨日の、洞窟でのことが蘇る。

裸の肌と肌が触れ合い、きっと全て見られていたーー

 

仁丸は、詩と信継を交互に見て、怪訝な顔をしている。

 

「まあ、その…なんだ。

桜はまだ成長期だから…

 

早く、…大きくなれ、…よ?」

 

「…っ」

 

詩は真っ赤になって思わずプイっと信継から顔を背ける。

 

「桜?どうしたんですか」

 

仁丸が不思議そうに詩を見た。

 

「…知りません…」

 

詩は赤くなっている。

 

信継も赤くなって、頭を掻いた。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者laurie6479 22:22 | コメントをどうぞ

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