月別アーカイブ: 2016年12月

り訪ねてき術前だ

喘息の発作が酷く入退院を繰り返した小児病棟で、見舞いに来た彩に帰っては嫌だと、朔良は縋って泣いた。1歳しか違わないのに、彩は朔良のベッドに上がり込んで眠るまであやした。ひそめた眉をなぞっても、朔良は身じろぎもしなかった。
無意識のうちに自分を呼んだ朔良を今は放ってはおけない白鳳丸功效と思う。手術の後は、耐えがたいリハビリが待っている。
朔良の冷たい額に掛かった髪を撫で分けて、彩はもう心に決めていた。

里流は鴨川総合病院の裏口で、中に居るはずの彩を待っていた。
待っていても会える保証はなかったが、何処に居てもいたたまれず、いつしか足が病院へと向かっていた。せめて少しでも近くに居て、彩を思っていたかったがそれは余りに迷惑なだけの女々しい行動のような気がする。
6階の外科病棟の204号室に、織田朔良は入院していると守衛が告げた。
話をしたこともない織田朔良の友人だと里流は告げて、病室を聞いた。

「あの……会えなくてもいいんです。少しでも良くなったら、お見舞に来ますから病室だけでも教えてもらえませんか。」

「ああ……6階の204号室だね。今日救急で運ばれてきた高校生の友達かい?手から養陰丸しばらくは面会謝絶のようだよ。」

「そうですか……一緒に、親戚の人が来ているはずなんですが。」

「それは、わからんね。」

管理人は入院者名簿を手に、気の毒そうに里流を見つめた。おそらく親友が心配の余たとでも思ったのだろう。
里流は頭を下げて、病院の外に出た。
晩秋の冷えた空気が、寂しい心を凍らせる気がする。救急車に乗り込む前の血の気の無い彩の顔が、何度も脳裏に浮かんだ。

本日もお読みいただきありがとうございます。(〃???〃)

彩は落ち込んでいるし、里流は暗いです……(′?ω?`)
しかもストックが尽きたので、不定期更新に突入必至です。できる養陰丸だけがんばりますが、すみませぬ。
着地点が決まっているので、頑張ります。 (`?ω?′)←ほんとよ。

カテゴリー: 未分類 | 投稿者luckryer 12:11 | コメントをどうぞ

屋敷の内を尽くし

その方が何を考えているのか、本心がわからぬと、一衛は心でつぶやいた。
それでも、長旅で疲れ切った体には、宿と食事の心配をしなくていいのは、正直ありがたかった。一衛が感じたとおり、この男にはもう一つの酷薄な顔がある。
もっとも、冷酷でなければ、多くの女性に春をひさがBB便秘せる廓の主など勤まるまい。

京から来てすぐ、売りに出ていた娼館を安い金で買い、手を加えて新政府役人相手の高級娼館に改築したところこれが当たり、今では役人にも顔が利くようになっていた。
公家崩れというのは作り話ではなかったが、別段悲劇の会津公に思い入れはない。
会津が降伏したと聞いたとき、生真面目な忠誠心など、持っていたところで腹の足しにもならない、武士の矜持など、そこいらの溝(どぶ)にでも放り込んでしまえばいいものを、と笑ったくらいだ。

二階の窓から二人の姿を見つけた時も、実際は面倒な関わりを恐れ、見て見ぬふりをしようとした。
だが、そのとき日向は、うつむく一衛の端整な顔を見て不意に思い出した。

新政府では内閣が組閣され、男色の盛んな薩摩から、政府の高官に推挙された多くの者が上京している。
夜ごと、楼閣「島原屋」を訪れる上客に、どこかに見目良い少年はいな靜脈曲張手術いかと問われ、あちこて探していたのだ。

今は東京と名を変えた江戸には、昔からそういう職業の少年が大勢いたが、大きな戦以来、男色を禁忌とする西洋人の影響を受け数が減っていた。
気軽に抱ける菖蒲や杜若のような清々しい美少年は、いたとしても世間から隔離されて、過去を愛でる粋人の奥に、ひっそりと深く隠されているのだろう。
礼儀をわきまえた品のある武家の少年など、日向の知ってる場所にはいなかった。
あけすけで下品なあばずれがしおらしくふるまってみても、付け焼刃はすぐにばれる。
次こそは……と、二つ返事で引き受けたものの、登楼するたびに催促され、すっかり気が重くなっていたところだった。
ふと目をとめた涼やかな一衛の美貌に、邪まに抜け目なくこれは商売に使えると目を細めた。
何しろ、腰には時代遅れの大小すら帯びている。
これ以上の上物はなかった。

実際、病を得てからの一衛は、元から白い肌がより抜けるように白くなり、穢れのない新雪のような雪白(せっぱく)という言葉が似合う。
会津での一衛を知らない日向は、傍らに腕の立つ相馬という男がいなければ、とうの昔に誰か血管瘤手術の毒牙に掛かっていただろうと思っていた。
もしや衆道の関係かと思い、それとなく話を聞いてみれば従兄弟同士だという。互いにかばい合って、戦禍で荒れ果てた国許から流れてきたということだった。
元々小柄な一衛の見た目は、雅を知る公家崩れの日向さえ、手折ってみたいと甘い嗜虐の念を抱かせた。

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