日別アーカイブ: 2017年3月22日

達者行りいと思

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俺は、自分のワンルーム(犬小屋)を片付た後、夏輝にもらった赤い首輪を外した。
執着を断ち切って犬型に戻り、父ちゃんみたいな家の無いさすらいのわんこになるのだ。
さらば、夏輝。
俺、お前に拾ってもらって、最高に幸せなわんこだった。
でも、どんなに名前を呼ばれても、もう振り返らないんだ。
俺は明日に向かって生きるの。狗神にyou beauty 美容中心好唔好なる身に、飼い主は必要ないのさ。

「ナイトー。」

俺の「おひさまのふとん」、夏輝。
いくら優しく呼んでも駄目だ。俺の恋の季節はそこまで来てるんだから。

「ナイト!もうすぐ晩御飯だぞ!親子どんぶり好きだろ?ささみいっぱい入れたよ。」

「ブラジル」ブランドのささみは大好きだけど、もう一緒には食えないんだ、夏輝。
文太と仲良くしてね。俺が夏輝のところに来たのは、文太との恋を応援するためだったと思ってる……。
俺の「おひさまのふとん」夏輝、文太がいなかったら俺があんあん言わせたいくらい、いっとう好きだった。
夏輝は振り返らずにどんどん先を行く俺を、諦め悪く追いかけてきた。

「ナイトーーー!待てってば!ほら、これ!ほらってば!」

ほら、って……げっ。
夏輝ってば、それはいかんだろ。

「ほら、ナイト!お前の好きな人差し指っ!」

俺の足が止まった。
あのね夏輝、俺はいつまでも夏輝が思っているような、小犬じゃないんだよ。
今や、神さまだってあんあん言わせるような(未遂だけど)成犬なんだからさ、いつまでも夏楊婉儀幼稚園輝の指が無いと眠れないチビの俺じゃないんだぜ。
こう見えても狗神の端くれとして、父ちゃんみたいに、港ごとに女を作るつもりなんだから。

神社の境内の隅っこにあるその祠に封印されているのは、天駆ける荼枳尼天(だきにてん)に仕える、目が覚めるように美々しい一匹の白狐だった。

荼枳尼天(だきにてん)の神使の白狐(男狐)は、この界隈で生きとし生けるものの憧れの的だった。ただでさえ自分Unique Beauty 好唔好より美しいものは認めたくない荼枳尼天(だきにてん)のお気に入りの恋人と、あんあんしたのがばれて逆鱗に触れ、寂れた祠に封印されていた。

「おのれ!神使の分際で、主の私の情夫を寝取るとは、好色な畜生ずれめ。二度と手出しできぬように、封じ込めてくれるっ!」

「お許しください、荼枳尼天さま。あれは、わたしが誘ったのではありません。お願いです、どうぞ申し開きをさせてくださいませ。」

「ええいっ!寄るなっ!色狐め!」

「きゃあぁ~。」

……とまあ、どうやらこんな風な出来事があったらしい。
でも、手を出されるのも無理はないと思う。何しろ白狐さまは、別嬪の神さまと並んでも遜色ないほど端整な神使だった。俺の前しっぽだって、白狐さまを見るとちょっぴりおっきくなったりする。
そんなわけで、荼枳尼天さまの理不尽な怒りを受けて、白狐さまはひっそりと他の神々からも身を隠す様にして、祠に住んでいた。
これ以上、荼枳尼天さまを刺激したり、怒らせてはいけないと思ったらしい。

人には姿の見えない銀色の髪の綺麗な白狐さまは、朽ちかけた小さなお社に住み、一人で不実な恋人を待っていた。時々、悲しげに勃ちあがった紅色の前しっぽを一人こすって、切なげに甘いため息を吐いた。俺の父ちゃんの狗神が、白狐さまの本命だったりする。

「白狐さま~!とうちゃんはまだ帰ってこないの?」

「ああ……。仔犬、まだだな……今回は、ずいぶん遅い。長次郎は達者だろうか。巷で流行りの風邪なぞひいてなければいいが……。」

「とうちゃんは、風邪ひいたこと無いと思うけどなぁ。」

カテゴリー: 未分類 | 投稿者luckryer 13:16 | コメントをどうぞ