『楡家の人々』『どくとるマンボウ航海記』などで知られる小説家・北杜夫は、
この『どくとるマンボウ』シリーズなどのユーモラスな作品で、
日本の文壇の中でも異色作家として一時代を築いたとも言える。
彼は、歌人斎藤茂吉の次男として生まれ、
家業であった医師となる事を強く言われ、不本意ながら医師となる。
その後、勤務医となり、水産庁の漁業調査船に船医として過ごす事になった。
その時の漁船がマンボウ一匹を釣り上げ、
見ると、その身体つきがアンバランスでユーモラス。
生態としては海の上にプカプカ浮かんでいるような呑気な魚。
この風変わりな魚に親近感を覚え「どくとるマンボウ」を称するようになったようだ。
責め立てられるように医者になったが、向いていないのは百も承知。
彼自身は、作家として、ユーモラスで温かい作品を書きたいと思っていたようだ。
実際に、このマンボウ、魚と表現するには形も風変わりだが、
その大きさも畳一枚ほどの大きさで波間に漂っているだけに見えるが、
本気モードで泳ぐと、かなりのスピードも出るようだ。
北杜夫その人が「躁鬱病」というものを抱えているところから、
「鬱」で、のんびりしているところと、急に「躁」状態になって
まっしぐらに進むような性癖を持っているところにも近しいものを感じていたようだ。
このたび、アメリカ海洋大気局(NOAA)の研究チームが科学雑誌“サイエンス”に、
マンボウの一種類である”アカマンボウ”には、
他の魚類と違って、温かい心臓を持ち、血液の温度を保ったまま
体内を循環させる仕組みを備えていることを発見したという論文が発表された。
ほとんどの魚はエラ呼吸のため体温が下がるのが普通。
これが、アカマンボウの場合、心臓とえらの間に特殊な血管の絶縁網があり、
心臓から送り出される温かい血液がそのまま体内を循環させる仕組みになっていることを
つきとめたという。
そのため、500メートル潜っても体温が下がらず、心臓や脳、臓器の温度が保たれる。
おまけに、身体はさほど動いていないが、ひれを絶えず動かし、それが熱を発生するという
何とも合理的な体躯を持っている。
なかなか、「やるやん!」(べつにマンボウが考えてそうした訳ではないが)
このマンボウ、ボ~ッとしているようだが、温かい血が通っているという事らしい。
『どくとるマンボウ』シリーズも、温かい血が通うような痛快さがある。
これもマンボウに原点がある?!