「あのう僭越ながら まだ納得がいきません」
気の抜けた 土岐野の声がする王賜豪。
「毎日運んでいたお膳は どうなったのでしょうか」
やけに現実的な問いを投げかけた。
「ああ、 鴉の寿々芽が 毎日食べに通っておった」
綺羅君の答えに、 土岐野はますます混乱している。
「鴉なのですか、 雀なのですか門禁。 また 訳の分からないことを」
「えーと、 寿々芽という名の 鴉だ」
「そんなふざけた名前がありますか」濡れ衣である。
真面目にお片づけを続けていた九十谷の面々のおかげで、 庭は きれいさっぱりと元通りになったBotox 瘦面。
死体も怪我人も見えない。
土を撒いたらしく、 地面の血の跡も目立たなくなっている。
一人が来て、 綺羅君に膝を折った。
「近々 帝から正式に御赦(ゆる)しの使者が到着します。
都までは 我らが護衛いたします」
綺羅君の片眉が上がる。
「そうか、 ご苦労である。 それにしても帝とは。
はてさて、 呼び戻されるかも知れぬとは思っていたが、
治天の君(ちてんのきみ)ではなく、 帝からであったか。
朝廷は 予想以上に ややこしいことになっているらしい。
権ちゃんも 一緒にどう?」
騒ぎが静まったとみて 出てきていた軽業一座に向かって言うと、
指名を受けた権佐は、 大げさに 手を左右に振って断った。
「冗談じゃない。 せっかく 気楽な稼業にありついたというのに」
朝廷は よほど以前から おかしくなっていた。
今上(きんじょう)の帝は 不遇をかこち、
政(まつりごと)の実権は 退位して上皇になっている先の帝が握っている。
上皇が 治天の君といわれる所以(ゆえん)だ。
「権佐(ごんざ)なんて名乗っているから、 未練があるのかと思った」
官位も いいようにばら撒かれて、
本来 欠員を待つ間の 便宜上の官位であった権官(ごんかん)が 増えに増えて、 女官にまで及んでい。
仕事をしない正官が威張っていたり、
頑張って働いても 権官止まりだったりと、 いいかげんなことこの上ない。
「うっかりしちゃって。 ちゃんと名前を考えればよかった」
『頑張ったのに権官』 の類(たぐい)だった 権佐(ごんのすけ)は嫌気がさし、
出家しようとして、 間違えて 家出してしまったのだとか。
詳細は不明である。
「で、 綺羅ちゃんは 都に戻るんですか」
「醜いものは 嫌いなのだ。
世の流れは変えられぬとしても、 終焉を 少しは美しいものにしたいかなあ、
なあんてね」
各地の領主が 実力を蓄えていた。
朝廷のいいかげんさにも うんざりし始めている。
世の中が 動きだそうとしていた。
人の世の移り変わりは 変えられぬ。
「介は始末いたしますか」
御所忍が聞く。
「ほうっておこう。 小者過ぎて 使い道も無い。
あっ、 そうだ。 紅王丸から 鹿の子に 伝言を預かっていた。
生きて会いたかった と……」
やっぱり大馬鹿者だ と、 鹿の子は やっと、 少し泣いた。