月別アーカイブ: 2016年12月

ヴァラナがたずねた

「なんとも」モリンはためいきをもらした。「世の中も変わったものです。では公式の密偵として陛下にご紹介したほうがよろしいのですか?」
「陛下はすでにお察しだと思いますわ、モリン卿」リセルはかれのやせた手に愛情をこめてふれながら、言った。
 モリンは一礼すると、おぼつかない足どりで部屋からゆっくり出ていった。
「なんて感じのいいお年寄りかしら」リセルはつぶやいた。
「これはこれは、いとこよ」シルクは大使に言った。
「やあ」カルドン王子はそっけなく答えた。
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「ふたりは血のつながりがあるのかね?」ヴァラナがたずねた。
「遠い親戚ですよ、陛下」シルクが言った。「母親同士がまたいとこなんです――またまたいとこだったかな?」
「またまたいとこのそのまたいとこだよ」カルドンはネズミ顔の親戚をじっと見た。「なんだかみすぼらしいな、おい。最後に会ったときは金やら宝石やらじゃらじゃらつけていたぞ」
「身をやつしているんだよ」シルクはものやわらかに言った。「おまえはおれに気づかないことになってるんだ」
「ああ」カルドンは皇帝のほうを向いた。「われわれの冗談をお許しください、陛下。ここにいるケルダーとわたしは子供のときから互いに毛嫌いしあっていたんです」
 シルクはにやにやした。「一目見たときからでしてね。おれたちは徹底的に嫌悪しあってるんですよ」
 カルドンはみじかくほほえんだ。「われわれが子供だったとき、双方の家族は家を訪問しあうたびにナイフというナイフを隠したものです」
 シルクは好奇心にかられてリセルにたずねた。「トル?ホネスでなにをやっているんだい?」
「秘密よ」
「ヴェルヴェットはボクトールから公文書を数通持ってきたんだ」カルドンが説明した。「それにいくつかの指示を」
「ヴェルヴェット?」
「ばかみたいでしょう?」リセルは笑った。「でもね、もっとひどいあだ名を選んだ可能性もあると思うわ」
「パッと頭に浮かんだものよりましだな」シルクが同意した。
「おじょうずね、ケルダー」
「われわれに知らせるべきだと考えていることがあるようだが、カルドン王子?」。
 カルドンはためいきをついた。「悲しいご報告なのですが、高級娼婦のベスラが殺されました、陛下」
「なんだと?」
「昨夜仕事から帰る途中、人気《ひとけ》のない通りで暗殺者一味に襲われたのです。虫の息のまま放置されましたが、よろめきながらわれわれの門にたどりつき、息絶える前にある情報を伝えたのです」
 シルクの顔から血の気がひいていた。「だれのしわざだったんだ?」
「まだ調査中だ、ケルダー」いとこは答えた。「もちろん、何人か容疑者はいるが、判事の前に連れていけるほど確かなことはなにもつかめてない」
 皇帝はけわしい表情で、すわっていた椅子から立ち上がった。「このことについて、知っておく必要のある者が何人かいる」かれはすごみのある声で言った。「一緒にきてくれるか、カルドン王子?」
「もちろんです、陛下」
「失礼する」ヴァラナは一同に言った。「一刻を争う問題なのだ」かれはドラスニア大使をしたがえて部屋から出ていった。
「ベスラはひどく苦しんだのか?」シルクは苦痛にみちた声で、通称ヴェルヴェットにきいた。
「暗殺者たちはナイフを使ったのよ、ケルダー」彼女はぽつりと答えた。「ナイフは決して気持ちのいいものじゃないわ」
「そうか」シルクのイタチみたいな顔がこわばった。「ベスラ殺害の理由について、彼女はなにか手がかりを残していったのか?」
「わたしの考えでは、いくつかのことと関係があると思うの。ベスラはかつてヴァラナ皇帝に、かれの息子の殺害計画を知らせたことがあると言ってたわ」
「ホネス一族だわ!」セ?ネドラが金切り声をあげた。
「どうしてそんなことを言うんだ?」シルクがすばやくたずねた。

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木々のあいだのあちこ

ベルガラスの表情がにわかに自暴自棄になった。「見えない計画に従って行動するのはだいきらいなんだ」かれはぶつぶつ言った。「前進してるのか、後退してるのかもわからんじゃないか」
セ?ネドラはガリオンにずっとしがみついていた。不安と安堵避孕方法がその顔の上でせめぎあっている。「ウルがわたしたちの赤ちゃんは無事だとおっしゃったのは、本当に確かなのね?」彼女はきいた。
「ゲランは元気だと言いました」エリオンドが元気づけた。「ゲランをつかんでいる者がかれの要求をみたすだろうし、さしあたってかれに危険はないそうです」
「さしあたって?」セ?ネドラは叫んだ。「それはどういう意味?」
「はっきりしたことは言われなかったんだよ、セ?ネドラ」ガリオンは言った。
「ゲランがどこにいるか、どうしてウルにきかなかったの?」
「教えてくださらないとわかっていたからさ。ゲランとザンドラマスを見つけ出すの居屋再按揭がぼくの仕事なんだ。ほかのだれかにその仕事をやってもらうなんてことは、かれらが許さないと思うよ」
「かれら? かれらってだれのこと?」
「予言書だよ――ふたつの。かれらはゲームをしている。ぼくたちみんなはそのルールに従わなくてはならないんだ――それがどんなルールかわからなくてもね」
「ばかげてるわ」
「予言書にそう言ってやれよ。考えたのはぼくじゃない」
ポルおばさんはふしぎそうにエリオンドを見ていた。「知ってたの?」おばさんはたずねた。「名前のことだけど?」
「ぼくにもうひとつ名前があることは知ってました。あなたがぼくをエランドって呼んだとき、なんだか、ピンとこなかったんです。すごく気になりますか、ポルガラ?」
彼女はほほえんで立ち上がると、テーブルを回って、エリオンドをあたたかく抱きしめた。「いいえ、エリオンド。ちっとも気にならないわ」
「ウルがおまえたちに課せられた務めとは、正確にはどういうものなんだ?」ベルガラスがきいた。
「そのときになればわかるものだと」
「それだけしか言われなかったのか?」
「それはきわめて重要なもので、それがぼくを変えることになるんだって」
ベルガラスは首をふって、ぶつくさ言った。「どうしていつもすべてが謎だらけじゃなくちゃならんのだ?」
「それもまたガリオンの言ったルールのひとつなんですよ」シルクが瓶のひとつから自分の酒杯に酒を再度満たしながら言った。「それで、次はどうします?」
ベルガラスは考えながら、片方の耳たぶをひっぱって、ほのかに光るランプのひとつを見上げた。「ガリオンたちのウルとの遭遇が、プロルグで起きる予定だったものであることはほぼまちがいないだろう。したがって、もう先へ進んだほうがいいと思う。目的地へ多少早くついたところで害はないだろうが、遅れたらたいへんなことになる」ベルガラスは腰掛けから立ち上がると、グロリムの折れそうな肩に片手をのせた。「ときどき連絡するようにしよう」と約束した。「洞窟を行くのに、ウルゴ人を何人かアレンディアまでの案内役として貸してもらえないか? できるだけ早く地上へ出たいのだ」
「もちろんだとも、友よ」ゴリムは答えた。「ウルがお導きくださるように」
「だれでもいいから頼むよ」シルクがぼそっと言った。
ベルガラスがじろりとシルクをにらんだ。
「だいじょうぶですよ、ベルガラス」シルクはおうように言った。「あなたがひっきりなしに道に迷ったからといって、あなたにたいするわれわれの尊敬はこれっぽちもへったりしやしませんから。迷子になるのは、きっとあなたがどこかで身につけた悪い癖なんだ――たぶん、もっと重要な問題に気をとられていたせいでしょう」
ベルガラスはガリオンを見た。「本当にシルクを同行させる必要があったのか?」
「うん、おじいさん、本当にあったんだ」
二日後、日が昇ったばかりの時刻に、一行は不定形な洞窟の出口にたどりついた。樺の森が外に広がっている。真っ青な空に向かって樺の白い木々が裸の枝を伸ばし、黄金色の落葉の絨緞が地面をおおっていた。洞窟の口までかれらを案内してきたウルゴ人たちは、はた目にもわかるほどひるんで、日光からあとずさった。かれらは二言三言ベルガラスにささやき、ベルガラスがかれらに礼を述べた。するとウルゴ人たちは心休まる暗闇のなかへ戻っていった。
「おれがいまどんなにいい気分でいるか、みんなには想像もつかないだろうな」シルクがほっとしたように洞窟の外へ出て、冷たい朝日をむさぼった。ちの地面が凍った雪で白くなり、斜めに差し込む朝日をあびてきらめいている。どこか左の遠くのほうで、山あいの小川が流れているらしく、せせらぎの音が聞き取れた。
「ここがどこだかわかりますか?」一行が馬に乗って樺の木立にはいったとき、ダーニクがベルガラスにたずねた。
老人は目をすがめて肩ごしにうしろを見ると、昇ったばかりの太陽の角度を推し測った。「推測では、中部アレンディアにそびえる山のふもとだな」
「アレンドの森の南端の斜面ですかね?」シルクがきいた。
「断言はできん」

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