「あるいは、おれたちの居所を知りたがっているだれかにとって、だな」シルクがつけくわえた。
「そういうことをしてもあまり利益にはなりませんよ、ケルダー」
「それで思いだした。おれはここで手っとり早い金もうけができるすばらしいチャンスに恵まれているわけだ。首に莫大な賞金がかかっていると言ったな。あんたが協力を拒めば、その賞金をいただくことにすりゃいいんだ。いくらと言った?」
「あなたはそんなことはしませんよ、ケルダー」サディは涼しい顔で答えた。「あなたがたはザンドラマスに追いつこうと急いでいるし、報酬を手に入れるにはおびただしい煩雑な手つづきが必要なんです。金を見るまでに、まあ、一ヵ月はかかるでしょうな。そのすきにザンドラマスはますます遠くへ逃げてしまう」
「それもそうだな」シルクは認めた。残念そうな表情で、かれは短剣のひとつに手をのばした。「だが、こっちの手もある――むごたらしいが、たいがいはきわめて効果的だ」
サディはシルクからあとずさった。「ベルガラス」かれはかすかにおびえた声を出した。
「その必要はない、シルク」老人はポルガラのほうを向いた。「おまえになにができるか見てみよう、ポル」
「そうね、おとうさん」彼女は、宦官のほうを向いた。「すわるのよ、サディ。見てもらいたいものがあるの」
「いいですとも、レディ?ポルガラ」かれは愛想よくうなずいて、テーブルの横の椅子に腰かけた。
「よくごらん」ポルガラはかれの目の前で奇妙なジェスチャーをした。
宦官はあいかわらずにこやかだった。「じつに魅力的だ」かれは目の前に出現したらしきものを見ながらつぶやいた。「ほかの手品もできるんですか?」
ポルガラは腰をかがめると、サディの目をじっとのぞきこんだ。「そうだったの。あんたは思っていたより頭がいいわ、サディ」彼女はみんなのほうに向きなおった。「薬を飲んでるわ。たぶんさっきの瓶がそうよ。さしあたってはどうすることもできないわ」
「ということは、さっきの手に戻るしかないな」シルクがふたたび短剣に手をのばした。
ポルガラがかぶりをふった。「いまやっても、感じもしないでしょうね」
「あれ」サディががっかりした口調で言った。「消してしまったんですか――気にいってたのに」
「薬はいつかは切れる」シルクは肩をすくめた。「効き目が薄れてくるころには、おれたちは都市からかなり遠ざかっているはずだし、注意をひく悲鳴もあげさせないで、こいつから答えをひきだせるだろう」かれの手は短剣のそばをいきつもどりつした。
(アローン人というやつは)ガリオンの頭のなかの乾いた声がうんざりしたように言った。(なぜおまえたちはあらゆる問題を剣でけりをつけようとするのだ?)
(は?)
(チビの泥棒に短剣をしまえと言うのだ)
(しかし――)
(わたしにさからうな、ガリオン。おまえにはザンドラマスに関するサディの情報が必要なのだ、それを与えてやることはわたしにはできん)
(かれを同行させろとほのめかしておられるんじゃないでしょうね?)ガリオンはその考えにいたくショックを受けた。
(なにもほのめかしてなどおらんぞ、ガリオン。言っているのだ。サディは同行する。かれぬきでは任務は果たせん。さあ、ベルガラスにそう言ってやれ)
(気にいらないと思いますよ)
(そんな反応は痛くもかゆくもない)それだけ言って、声は消えた。
「おじいさん」ガリオンはしぶしぶ言った。
「なんだ?」老人の口調はいらだたしげだった。
「これはぼくの考えじゃないんだ、おじいさん、だが――」ガリオンはうっとりとしている宦官をけがらわしげに見つめてから、処置なしといったように両手をあげた。
「そんなばかな!」一瞬間をおいて、ベルガラスは叫んだ。
「残念だけど」
「なんのお話ですか?」サディが興味ありげにたずねた。
「だまれ!」ベルガラスは一喝すると、ガリオンに向きなおった。「絶対に確かなのか?」
ガリオンはしょんぼりとうなずいた。
「じつにばかげておる!」老人は向きを変えて、サディをねめつけた。それからテーブルごしに宦官の虹色のローブの胸ぐらをむんずとつかんだ。「ようく聞けよ、サディ」ベルガラスはくいしばった歯のすきまからおしだすように言った。「おまえはわれわれに同行する、ただし、あの瓶には二度と鼻をつっこむな。わかったか?」
「もちろんです、長老」屋官はさっきと同じうっとりした声で答えた。
「わしの言っていることがよく」ベルガラスはおそろしいほど静かな声でつづけた。「一度でもおまえが頭をタンポポでいっぱいにしているところを見つけたら、ケルダーに短剣で刺されたほうがよかったと思うような目にあわせてやるぞ。いいな?」
サディの目が大きくなり、顔が蒼白になった。「は――はい、ベルガラス」かれは恐ろしげにどもった。
「よし。さあ、話すんだ。正確には、ザンドラマスについてなにを知っている?」
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