月別アーカイブ: 2017年5月

わかっておらんようだな

「あるいは、おれたちの居所を知りたがっているだれかにとって、だな」シルクがつけくわえた。
「そういうことをしてもあまり利益にはなりませんよ、ケルダー」
「それで思いだした。おれはここで手っとり早い金もうけができるすばらしいチャンスに恵まれているわけだ。首に莫大な賞金がかかっていると言ったな。あんたが協力を拒めば、その賞金をいただくことにすりゃいいんだ。いくらと言った?」
「あなたはそんなことはしませんよ、ケルダー」サディは涼しい顔で答えた。「あなたがたはザンドラマスに追いつこうと急いでいるし、報酬を手に入れるにはおびただしい煩雑な手つづきが必要なんです。金を見るまでに、まあ、一ヵ月はかかるでしょうな。そのすきにザンドラマスはますます遠くへ逃げてしまう」
「それもそうだな」シルクは認めた。残念そうな表情で、かれは短剣のひとつに手をのばした。「だが、こっちの手もある――むごたらしいが、たいがいはきわめて効果的だ」
 サディはシルクからあとずさった。「ベルガラス」かれはかすかにおびえた声を出した。
「その必要はない、シルク」老人はポルガラのほうを向いた。「おまえになにができるか見てみよう、ポル」
「そうね、おとうさん」彼女は、宦官のほうを向いた。「すわるのよ、サディ。見てもらいたいものがあるの」
「いいですとも、レディ?ポルガラ」かれは愛想よくうなずいて、テーブルの横の椅子に腰かけた。
「よくごらん」ポルガラはかれの目の前で奇妙なジェスチャーをした。
 宦官はあいかわらずにこやかだった。「じつに魅力的だ」かれは目の前に出現したらしきものを見ながらつぶやいた。「ほかの手品もできるんですか?」
 ポルガラは腰をかがめると、サディの目をじっとのぞきこんだ。「そうだったの。あんたは思っていたより頭がいいわ、サディ」彼女はみんなのほうに向きなおった。「薬を飲んでるわ。たぶんさっきの瓶がそうよ。さしあたってはどうすることもできないわ」
「ということは、さっきの手に戻るしかないな」シルクがふたたび短剣に手をのばした。
 ポルガラがかぶりをふった。「いまやっても、感じもしないでしょうね」
「あれ」サディががっかりした口調で言った。「消してしまったんですか――気にいってたのに」
「薬はいつかは切れる」シルクは肩をすくめた。「効き目が薄れてくるころには、おれたちは都市からかなり遠ざかっているはずだし、注意をひく悲鳴もあげさせないで、こいつから答えをひきだせるだろう」かれの手は短剣のそばをいきつもどりつした。
(アローン人というやつは)ガリオンの頭のなかの乾いた声がうんざりしたように言った。(なぜおまえたちはあらゆる問題を剣でけりをつけようとするのだ?)
(は?)
(チビの泥棒に短剣をしまえと言うのだ)
(しかし――)
(わたしにさからうな、ガリオン。おまえにはザンドラマスに関するサディの情報が必要なのだ、それを与えてやることはわたしにはできん)
(かれを同行させろとほのめかしておられるんじゃないでしょうね?)ガリオンはその考えにいたくショックを受けた。
(なにもほのめかしてなどおらんぞ、ガリオン。言っているのだ。サディは同行する。かれぬきでは任務は果たせん。さあ、ベルガラスにそう言ってやれ)
(気にいらないと思いますよ)
(そんな反応は痛くもかゆくもない)それだけ言って、声は消えた。
「おじいさん」ガリオンはしぶしぶ言った。
「なんだ?」老人の口調はいらだたしげだった。
「これはぼくの考えじゃないんだ、おじいさん、だが――」ガリオンはうっとりとしている宦官をけがらわしげに見つめてから、処置なしといったように両手をあげた。
「そんなばかな!」一瞬間をおいて、ベルガラスは叫んだ。
「残念だけど」
「なんのお話ですか?」サディが興味ありげにたずねた。
「だまれ!」ベルガラスは一喝すると、ガリオンに向きなおった。「絶対に確かなのか?」
 ガリオンはしょんぼりとうなずいた。
「じつにばかげておる!」老人は向きを変えて、サディをねめつけた。それからテーブルごしに宦官の虹色のローブの胸ぐらをむんずとつかんだ。「ようく聞けよ、サディ」ベルガラスはくいしばった歯のすきまからおしだすように言った。「おまえはわれわれに同行する、ただし、あの瓶には二度と鼻をつっこむな。わかったか?」
「もちろんです、長老」屋官はさっきと同じうっとりした声で答えた。
「わしの言っていることがよく」ベルガラスはおそろしいほど静かな声でつづけた。「一度でもおまえが頭をタンポポでいっぱいにしているところを見つけたら、ケルダーに短剣で刺されたほうがよかったと思うような目にあわせてやるぞ。いいな?」
 サディの目が大きくなり、顔が蒼白になった。「は――はい、ベルガラス」かれは恐ろしげにどもった。
「よし。さあ、話すんだ。正確には、ザンドラマスについてなにを知っている?」

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そういうものじゃありま

「わたしだ――ドロブレクだ」太った男は答えた。「あんたが会いたがっていた人たちが到着したんだ」ドロブレクは石板におおわれたドアを引き開けた。「わたしはまた見張りに戻りますから」かれはベルガラスたちに言った。
ドアの向こう側は蝋燭一本に照らされた、薄暗くて小さな、じめじめした隠し部屋だった。おんぼろの木のテーブルのそばに、宦官のサディがこわごわ立っていた。剃りあげた頭には短い毛がはえはじめ、真っ赤な絹のローブはぼろぼろだった。目には追いつめられた表情が浮かんでいる。「ついにきましたね」かれはほっとしたように言った。
「いったいぜんたいこんなところでなにをしてるの、サディ?」ポルガラがたずねた。
「隠れてるんです。どうかみなさんなかへはいって、ドアをしめてください。わたしがここにいることを偶然だれかに見られたくないんです」
かれらがその小部屋にはいると、ドロブレクが外からぴったりドアをしめた。
「なんだって、サルミスラの宮殿の宦官長が、ドラスニアの港湾局長の家に隠れているんだい?」シルクが興味しんしんでたずねた。
「宮殿でささいな誤解があったんですよ、ケルダー王子」サディは答えて、木のテーブルの横の椅子に力なくすわりこんだ。「わたしはもう宦官長じゃない。じっさいのところ、わたしの首には賞金がかけられているという話ですよ――莫大な賞金が。ドロブレクはわたしに借りがあったので、ここにわたしをかくまっているんです――あまり気はすすまぬようだが、しかし――」かれは肩をすくめた。
「金の話が出たついでだから、そろそろあたしの金を払ってもらいたいね」イサスが口をひらいた。
「もうひとつやってもらいたい仕事があるんだ、イサス」宦官は変に甲高い持ち前の声で言った。「宮殿にはいりこめると思うか?」
「必要とあれば」
「わたしの部屋に赤い革の箱があるんだ――ベッドの下だ。真鍮の蝶番のついているやつだ。それがほしい」
「報酬は?」
「妥当と思うだけ払ってやる」
「いいでしょう。すでにやった仕事の二倍でどうです?」
「二倍だと?」
「宮殿は目下きわめて危険なんですぜ」
「入の弱みにつけこむな、イサス」
「じゃ、自分でとりにいったらどうです」
サディは弱りきったようにイサスをにらんだ。「しかたがない、倍だそう」
「あんたと仕事をするのはいつも変わらぬ楽しみですよ、サディ」イサスは口先だけで言うと、ドアからこっそり出ていった。
「なにがあったんだ?」シルクは神経をとがらせている宦官にたずねた。
サディはためいきをついた。「ある言いがかりの的にされたんですよ」かれは苦渋に満ちた声で言った。「突然のことで、反論するにもしようがなかったので、任務からしばらく離れたほうがよかろうと考えたんです。いずれにせよ、最近は働きすぎでしたからね」
「事実無根の言いがかりだったのか?」
サディは短い毛が生えだした頭を指の長い手でなでた。「それが――完全にそうだというわけでは」と認めた。「しかし、針小棒大もいいところですよ」
「宮殿でだれがきみの後がまにすわったんだ?」
「サリスです」サディは吐きすてるように言った。「本物の流儀などまるで持ち合わせない三流の陰謀家ですよ。いつか、やつが喉から手が出るほど必要としているものを切り落としてやる――なまくらなナイフでね、さぞ楽しいことでしょう」
「イサスの話では、ザンドラマスという人物についての情報を持っているそうだな」ベルガラスが横から言った。
「そのとおりです」サディは答えた。椅子からたちあがると、かれは一方の壁ぎわにおしつけられた寝乱れたベッドに近寄った。きたない茶色の毛布の下をひっかきまわして小さな銀の瓶をとりだし、蓋をとって、「失礼」とひと口すすった。サディは顔をしかめた。「こんなにまずくなければいいのに」
ポルガラがひややかにかれを一瞥した。「そんなことでザンドラマスについて知っていることを話せるの?――いまにチョウチョの幻覚がちらついてくるわよ」
サディはしらばっくれてポルガラを見た。「いや、まさか。これはせんよ、レデ物業二按ィ?ポルガラ」かれは瓶をふりながら受け合った。「鎮静効果があるだけです。この数ヵ月に起きたことで、神経がずたずたにされてしまったのでね」
「本題にはいろうじゃないか」ベルガラスがほのめかした。
「けっこうです。わたしはあなたがたの望むものを持っているし、あなたがたはわたしが望むものを持っている。取引は当を得たことだと思いますよ」
「その話をしよう」シルクの目がにわかに光りはじめ、長い鼻がうごめいた。
「あなたの評判はよく知っていますよ、ケルダー王子」サディは微笑した。「あなたと取引しようとするほどわたしはおめでたくない」
「よかろう、あんたがわれわれに望むものとはなんだね、サディ?」ベルガラスはどんよりした目つきの宦官にたずねた。
「あなたがたはニーサから出るところでしょう。わたしを一緒に連れていってもらいたいのです。かわりにザンドラマスについて知ったことをすべて教えましょう」
「話にもならんな」
「それは早とちりだと思いますよ、長老。まず最後まで聞いてください」
「わしはあんたを信用しておらんのだ、サディ」ベルガラスはつっけんどんに言った。
「無理からぬことです。わたしは信用されるべきたぐいの人間じゃありませんからね」
「ではどうしてあんたみたいな荷物をしょいこまねばなら公屋貸款んのだ?」
「なぜなら、わたしはあなたがたがザンドラマスを追っている理由を知っているからですよ――それだけでなく、ザンドラマスがどこへ向かっているのかも知っている。あなたがたにとってはじつに危険な場所だが、いったんそこへつけば、自由に動き回れるようわたしが取り計らってさしあげられる。さあ、お互いの信頼感などという子供じみた考えはやめて、取引に移ろうじゃありませんか?」
「ここにいても時間が無駄になるだけだ」ベルガラスはみんなに言った。
「わたしはあなたにとって、すこぶるお役にたちますよ、長老」サ雀巢奶粉ディが言った。

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