そういうものじゃありま

「わたしだ――ドロブレクだ」太った男は答えた。「あんたが会いたがっていた人たちが到着したんだ」ドロブレクは石板におおわれたドアを引き開けた。「わたしはまた見張りに戻りますから」かれはベルガラスたちに言った。
ドアの向こう側は蝋燭一本に照らされた、薄暗くて小さな、じめじめした隠し部屋だった。おんぼろの木のテーブルのそばに、宦官のサディがこわごわ立っていた。剃りあげた頭には短い毛がはえはじめ、真っ赤な絹のローブはぼろぼろだった。目には追いつめられた表情が浮かんでいる。「ついにきましたね」かれはほっとしたように言った。
「いったいぜんたいこんなところでなにをしてるの、サディ?」ポルガラがたずねた。
「隠れてるんです。どうかみなさんなかへはいって、ドアをしめてください。わたしがここにいることを偶然だれかに見られたくないんです」
かれらがその小部屋にはいると、ドロブレクが外からぴったりドアをしめた。
「なんだって、サルミスラの宮殿の宦官長が、ドラスニアの港湾局長の家に隠れているんだい?」シルクが興味しんしんでたずねた。
「宮殿でささいな誤解があったんですよ、ケルダー王子」サディは答えて、木のテーブルの横の椅子に力なくすわりこんだ。「わたしはもう宦官長じゃない。じっさいのところ、わたしの首には賞金がかけられているという話ですよ――莫大な賞金が。ドロブレクはわたしに借りがあったので、ここにわたしをかくまっているんです――あまり気はすすまぬようだが、しかし――」かれは肩をすくめた。
「金の話が出たついでだから、そろそろあたしの金を払ってもらいたいね」イサスが口をひらいた。
「もうひとつやってもらいたい仕事があるんだ、イサス」宦官は変に甲高い持ち前の声で言った。「宮殿にはいりこめると思うか?」
「必要とあれば」
「わたしの部屋に赤い革の箱があるんだ――ベッドの下だ。真鍮の蝶番のついているやつだ。それがほしい」
「報酬は?」
「妥当と思うだけ払ってやる」
「いいでしょう。すでにやった仕事の二倍でどうです?」
「二倍だと?」
「宮殿は目下きわめて危険なんですぜ」
「入の弱みにつけこむな、イサス」
「じゃ、自分でとりにいったらどうです」
サディは弱りきったようにイサスをにらんだ。「しかたがない、倍だそう」
「あんたと仕事をするのはいつも変わらぬ楽しみですよ、サディ」イサスは口先だけで言うと、ドアからこっそり出ていった。
「なにがあったんだ?」シルクは神経をとがらせている宦官にたずねた。
サディはためいきをついた。「ある言いがかりの的にされたんですよ」かれは苦渋に満ちた声で言った。「突然のことで、反論するにもしようがなかったので、任務からしばらく離れたほうがよかろうと考えたんです。いずれにせよ、最近は働きすぎでしたからね」
「事実無根の言いがかりだったのか?」
サディは短い毛が生えだした頭を指の長い手でなでた。「それが――完全にそうだというわけでは」と認めた。「しかし、針小棒大もいいところですよ」
「宮殿でだれがきみの後がまにすわったんだ?」
「サリスです」サディは吐きすてるように言った。「本物の流儀などまるで持ち合わせない三流の陰謀家ですよ。いつか、やつが喉から手が出るほど必要としているものを切り落としてやる――なまくらなナイフでね、さぞ楽しいことでしょう」
「イサスの話では、ザンドラマスという人物についての情報を持っているそうだな」ベルガラスが横から言った。
「そのとおりです」サディは答えた。椅子からたちあがると、かれは一方の壁ぎわにおしつけられた寝乱れたベッドに近寄った。きたない茶色の毛布の下をひっかきまわして小さな銀の瓶をとりだし、蓋をとって、「失礼」とひと口すすった。サディは顔をしかめた。「こんなにまずくなければいいのに」
ポルガラがひややかにかれを一瞥した。「そんなことでザンドラマスについて知っていることを話せるの?――いまにチョウチョの幻覚がちらついてくるわよ」
サディはしらばっくれてポルガラを見た。「いや、まさか。これはせんよ、レデ物業二按ィ?ポルガラ」かれは瓶をふりながら受け合った。「鎮静効果があるだけです。この数ヵ月に起きたことで、神経がずたずたにされてしまったのでね」
「本題にはいろうじゃないか」ベルガラスがほのめかした。
「けっこうです。わたしはあなたがたの望むものを持っているし、あなたがたはわたしが望むものを持っている。取引は当を得たことだと思いますよ」
「その話をしよう」シルクの目がにわかに光りはじめ、長い鼻がうごめいた。
「あなたの評判はよく知っていますよ、ケルダー王子」サディは微笑した。「あなたと取引しようとするほどわたしはおめでたくない」
「よかろう、あんたがわれわれに望むものとはなんだね、サディ?」ベルガラスはどんよりした目つきの宦官にたずねた。
「あなたがたはニーサから出るところでしょう。わたしを一緒に連れていってもらいたいのです。かわりにザンドラマスについて知ったことをすべて教えましょう」
「話にもならんな」
「それは早とちりだと思いますよ、長老。まず最後まで聞いてください」
「わしはあんたを信用しておらんのだ、サディ」ベルガラスはつっけんどんに言った。
「無理からぬことです。わたしは信用されるべきたぐいの人間じゃありませんからね」
「ではどうしてあんたみたいな荷物をしょいこまねばなら公屋貸款んのだ?」
「なぜなら、わたしはあなたがたがザンドラマスを追っている理由を知っているからですよ――それだけでなく、ザンドラマスがどこへ向かっているのかも知っている。あなたがたにとってはじつに危険な場所だが、いったんそこへつけば、自由に動き回れるようわたしが取り計らってさしあげられる。さあ、お互いの信頼感などという子供じみた考えはやめて、取引に移ろうじゃありませんか?」
「ここにいても時間が無駄になるだけだ」ベルガラスはみんなに言った。
「わたしはあなたにとって、すこぶるお役にたちますよ、長老」サ雀巢奶粉ディが言った。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者rejectiow 11:06 | コメントをどうぞ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">