てわたしにゆずることに

夫人は目をうるませて力なくガリオンを見つめた。「騎士道にもとるふるまいですわ、陛下」彼女はガリオンを責めた。
「ぼくはセンダリアの農場育ちですからね」ガリオンは男爵夫人に思い出させた。「高尚な教育優悅 避孕は受けられなかったから、ときどきこういうちょっとした行きすぎをやるんですよ。しかし、あなたの身投げを許さなかったことに関しては、いつかきっと許してもらえると思う。さて、失礼してむこうのばか騒ぎを止めに行かなくては」ガリオンはきびすをかえして鎧を鳴らしながら階段へ向かった。「そうそう」かれは男爵夫人をふりかえった。「ぼくが背をむけたとたんに飛び降りようなんてしないように。ぼくの腕は長いんだ、ネリーナ――とてもね」
男爵夫人はくちびるをふるわせてガリオンを見つめた。
「そのほうがいい」ガリオンは階段をおりていった。
マンドラレン城の召使いたちは下の中庭へ大股にでてきたガリオンのけわしい顔をひとめ見るなり、こそこそと道をあけた。ガリオンは城まで乗ってきた軍馬にやっとの思いではいあがり、背中にさげたリヴァの王の巨大な剣の位置を正すと、まわりを見まわして命じた。「だれか槍をもってきてくれ」
人々はわれ先にと何本かの槍を持ってきた。ガリオンは一避孕 藥 副作用本を中から選んで、ひづめの音も高く急いで出発した。
マンドラレンの城塞のすぐ外に広がるボー?マンドルの町の住民は、城塞の内側の召使い同様分別があった。怒ったリヴァ王が通過したとき、玉石敷の通りは人っ子ひとりなく、町の門は大きく開け放たれていた。
ガリオンはこれからアレンド人の注意をひきつけなくてはならなかったが、開戦のせとぎわにいるアレンド人ほど気をそらしにくい人々もなかった。何かでかれらをびっくりさせる必要がある。緑豊かなアレンドの田園地帯を走りぬけ、かやぶき屋根のこざっぱりした村々やブナやカエデの木立を通過しながら、ガリオンは頭上をかすめ飛ぶ灰色の雲を値踏みするようにながめた。計画とも言えないようなもやもやしたものが、そのとき頭にうかびはじめた。
到着してみると、ひろびろとした草原のむこうとこちらに、両軍が整列して口服 避孕 藥にらみあっていた。アレンドには多数の兵がひとりずつ鬨《とき》の声をあげるという昔ながらのならわしがあるが、それはすでに終わっていた。それは言うならば、それにつづく乱闘の序幕戦として定着したならわしだった。両軍が満足そうに見守る中、戦場のまんなかで鎧兜に身を固めた数人の騎士たちの槍攻撃がはじまった。血気にはやる愚かな若い貴族たちが双方から突進し、砕けた槍の残骸が芝にちらばった。
ガリオンはひとめで状況を見て取ると、そのまままっすぐ争いのまっただなかへのりこんでいった。このさい多少のずるは許されなくてはならない。かれが持っている槍は、相手を殺すか不具にしようとしているミンブレイトの騎士たちの槍と少しも変わらないように見えた。だがひとつだけ大きな違いがあった。ガリオンの槍は彼らの槍とちがって、どんなことをしても絶対に折れないのだ。さらに、それは絶対的な力という後光にも似たもので包まれていた。ガリオンはその槍の鋭い切っ先でだれかを刺そうとはこれっぽっちも思っていなかった。かれが望んでいるのは、ひたすら、騎士たちに馬からおりてもらうことだった。あっけにとられている騎士たちのまんなかをくぐりぬけて、まず三人をたてつづけに鞍から投げおとした。次に向かってきた二人をあっというまに下へつきおとした。あまり手際があざやかだったので、ふたりの騎士が落下する騒々しい音も、ひとつの音としてしか聞こえないほどだった。
しかしながら、アレンド人が頭として使っている硬い骨をやわらかくするには、もうすこし適当な見せ場が必要だった。ガリオンは無敵の槍をあっさり捨てて、背中へ手をのばし、リヴァ王の剣を抜いた。〈アルダーの珠〉がまばゆい青い光を放ち、剣自体がたちまち炎に包まれた。いつものことだが、剣はその並はずれた大きさにもかかわらず、ほとんど重さを感じさせなかった。ガリオンは目が回るほどの速度で剣をふりまわした。おどろいているひとりの騎士めがけて突進し、持っていた槍を柄までこまぎれにしてしまった。残りが柄だけになると、ガリオンは燃える剣の平たい部分で騎士を鞍からはたきおとした。それからすばやく向きを変え、つきだされた鎚矛をまっぷたつにしたあと、それを持っていた騎士を馬もろとも地面につきたおした。
ガリオンのすさまじい攻撃にミンブレイトの騎士たちはおそれをなしてあとずさった。しかしかれらをふるえあがらせたのは、ガリオンの圧倒的な強さばかりではなかった。リヴァの王はくいしばった歯のすきまから強者たちを青ざめさせる選りすぐりの呪いを吐き出していた。ガリオンは燃えるような目をしてあたりを睥睨すると、意志の力を結集させた。赤々と輝く剣をかざすと、頭上の曇天を剣でゆびさした。「いまだ!」鞭がしなうような声で叫んだ。
ベルガリオンの意志の力が届いたとき、雲はふるえ、ほとんどすくみあがったように見えた。大木の幹ほどもある太い稲妻が落ちて、鼓膜をふるわす大音響が生じ、四方の地面を数マイルにわたってゆるがした。雷が落ちた草原に大きな穴がぽっかりあいた。ガリオンは何度もくりかえし稲妻を呼んだ。雷の音が空中に充満し、大地が焦げて煙がたちこめた。軍団は急におじけついた。
やがてすさまじい強風が襲いかかった。それと同時に雲が裂けてバケツの水をひっくりかえしたような雨が両軍を水びたしにし、騎士たちはその衝撃で文字どおり馬からころげおちた。強風がうなりをあげ、どしゃぶりがかれらをずぶぬれにしているあいだにも、稲妻はひきつづき両軍をへだてている草原をゆるがし、焦がし、湯気と煙で空中を満たした。草原を横切るのはとうていむりだった。
ガリオンはそのおそるべき光景のどまんなかで、おじけついた軍馬にむっつりとまたがっていた。かれのまわりでは稲光が踊っていた。両軍の上にさらに何分か雨をふらせ、かれらの注意を十分にひけると確信すると、燃える剣をなにげなくひとふりして、どしゃぶりをとめた。
「こういう愚行はもうたくさんだ!」雷もかくやと思われる大声でガリオンは言った。「ただちに武器をおろせ!」
騎士たちはガリオンを見つめ、次にうたがわしげにたがいに見つめあった。
「いますぐにだ!」ガリオンはさけぶと、命令を強調するためにもういちど稲妻をおこした。
あわてて武器を捨てる騒々しい音がひびいた。
「いまここで、エンブリグ卿とマンドラレン卿に会いたい」ガリオンは剣の先端で馬の正面をさした。「ただちにだ!」
ふてくされた学校の生徒のように、鎧兜に身を固めた二人の騎士がしぶしぶガリオンの前へ進みでた。
「きみたちふたりは自分たちのしていることをどう思っているんだ?」ガリオンは問いつめた。
「名誉からしたまでのことです、陛下」エンブリグ卿が口ごもりながら言った。エンブリグ卿は四十がらみのがっしりした赤ら顔の男で、酒のみに特有の紫色の鼻をしていた。「マンドラレン卿がわたしの縁つづきの女性を誘拐したのです」
「あの女性についてのおぬしの関心は彼女に権力をふるうことだけではないか」マンドラレンが熱っぽく反論した。「おぬしは彼女の気持ちを無視して、士地と家財を奪い、さらに――」
「もういい」ガリオンはぴしゃりと言った。「それで十分だ。きみたちの個人的けんかがアレンディアの半分を戦争のせとぎわへ追いこんだ。それがきみたちのしたかったことか? 我を通すことができたら、自分の国がめちゃくちゃになってもいいのか? きみたちはそれほどわからずやなのか?」
「しかし――」マンドラレンは反論しようとした。
「しかしもくそもない」ガリオンはかれらをどう思っているかについて話しつづけた――えんえんと。その口調は軽蔑にみち、言葉の選択は多岐にわたった。ガリオンが話すにつれて、ふたりの顔は青くなった。やがてガリオンはレルドリンが注意深く耳をかたむけているのを見つけた。
「そしてきみだ!」ガリオンは若いアストゥリア人に注意の矛先を転じた。「きみはミンブルでいったいなにをしている?」
「ぼくですか? でも――マンドラレンはぼくの友だちですよ、ガリオン」
「かれが助けを求めたのか?」
「その――」
「そうではあるまい。きみが勝手にそう思ったのだ」それからガリオンはレルドリンを非難の対象に含め、かれらをいましめながらさかんに右手で燃える剣をふりまわした。三人はガリオンが彼らの面前で剣をふりまわすたびに、目を大きく見開いて不安げに剣を見守った。
「よろしい。それでは」空気中の稲妻を一掃したあと、ガリオンは言った。「これがわれわれのしようとしていることだ」とエンブリグ卿にいどむような目を向けた。「わたしと戦いたいかね?」好戦的に顎をつきだしてきいた。
エンブリグ卿の顔が真っ青になり、目がとびだしそうになった。「わたしがですか、陛下?」かれはあえぐように言った。「このわたしを〈神をほふる者〉と戦わせようとおっしゃるのですか?」彼はがたがたとふるえはじめた。
「だめだろうな」ガリオンはぶつぶつ言った。「そうすると、きみはネリーナ男爵夫人について要求したものいっさいをただちに放棄しなる」
「喜んで、陛下」エンブリグの口から言葉が我先にこぼれでた。
「マンドラレン、きみはわたしと戦いたいか?」
「あなたは拙者の友だちです、ガリオン」マンドラレンは抗議した。「あなたに手をあげるくらいなら死んだほうがましです」
「よろしい。それでは男爵夫人にかわって、領地に関する所有権の主張をわたしに一任せよ――ただちにだ。いまからわたしが夫人の保護者になる」
「わかりました」マンドラレンは神妙に答えた。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者rejectiow 18:47 | コメントをどうぞ

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