紫陽花になったイグアナの話

六月の空は物悲しい。何故そんなに泣き濡れる。しくしく泣くたびに空は曇り、落とした涙は雨となって大地に降り注ぎ、紫陽花を咲かせ。

五月のことである。海の神であるポセイドンは、西太平洋一帯を例年通り回遊していた。多くのイルカや鯨たちに囲まれ、寛ぎながら夏を待ち詑びるのが何よりの愉しみであった。しかし、今年はどうも様子がおかしい。六月を前に東に移動を始めた。梅雨空を司る六月の女神が、ゼウスの許可もなく五月のうちにやって来たことが原因らしい。怒ったポセイドンは東太平洋へと安住の場を求めていった。

梅雨空を司る六月の女神は、海神ポセイドンに好意を寄せていた。ところが、海神ポセイドンは陰鬱で醜い六月の女神が予てreenex膠原自生より大嫌いであった。ポセイドンは、この時期になると日本近海にやって来ては視線を投げかけてくる六月の女神を堪らなく鬱陶しく思っていた。毎年のように、ポセイドンはあの手この手で女神を追い払おうと意地悪をした。その度に六月の空は涙を流した。

ポセイドンの移動とともに、ポセイドンの体温で温められた海水域も東へ東へと移動していった。温かな海水域は、太平洋の東の果てのガラパゴス諸島にもやって来た。この島の女神であるラリーニャは、日増しに温かくなっていく海水にただならぬ気配を感じ取っていた。
「五年ぶりにあの男がやって来る」
イルカ
ガラパゴスの女神であるラニーニャとは、大神ゼウスとアステカの女神との間に生まれた隠し子である。異国の神との間に誕生した背徳の女神は、ゼウスの娘でありながら人目を憚るようにこの島に幽閉された。時が経ち娘が麗しく育った頃、ゼウスはこの地に再びやってきた。そして、こともあろうに実の娘と交わった。一年後、ラニーニャは、尻尾が生えたままの嬰児を次々と産み落とした。ゼウスは、トカゲにも似たこの禁断の生命に驚いた。ゼウスはこの奇怪な生命をリクイグアナと名付けた。しかし、ゼウスはリクイグアナを忌み嫌って二度とこの蟲草Cs4地にやってくることはなかった。

絶世の美女ラリーニャの噂は世界各地の神々に知れ渡った。当然のごとく海神ポセイドンの耳にも届いた。ある日のことである。ポセイドンは多くのイルカや鯨を従えてこの島へとやって来た。ポセイドンはこの娘に一目惚れをした。分別を亡くしたポセイドンは堪らずこの娘と交わった。一年後、ラリーニャは再びトカゲにも似た奇怪な生命を次々と出産した。ポセイドンはこの生命をウミイグアナと名付けた。ポセイドンの血を引くウミイグアナは、ゼウスの血を引くリクイグアナとは距離を置き、父の住む大海原を望む海辺で生活をするようになった。

ポセイドンは、五、六年に一度はこの島の様子を窺いにやって来た。しかし、皮肉なことにポセイドンがやって来る度に、ポセイドンの体温で温められた海水は、ウミイグアナの常食である岩場の海藻を枯れさせた。ある日のことである。餌を失ったウミイグアナの一頭が、新たな餌を求めて陸へと上がった。陸上ではリクイグアナの一族が暮らしていた。ウミイグアナとリクイグアナ、背徳の子孫達に禁断の恋が芽生えるのに時間はかからなかった。ウミイグアナとリクイグアナとの間に新種のイグアナが誕生した。あまりにも醜い容姿をした新種のイグアナには雌雄の別が無かった。しかし醜くともゼウスの末裔である。哀れな子孫の姿を嘆いたラリーニャは、このイグアナに神の子を意味するエルニーニョという名を与えた。

生殖能力を持たぬ一代限りのエルニーニョが息絶えたとき、その魂は贖罪の意を以てゼウスが引き取った。雌雄を持たぬエルニーニョの魂はゼウスのもとで女神として甦った。ゼウスは一年に一度、六月の間だけだけ祖父であるポセイドンに合うことを許した。六月の女神は、祖父ポセイドンに会いたい一心で太平洋に程近い日本付近の空を選んで舞い降りた。己の子孫とは知らぬ海神ポセイドンは、自分に付き纏う醜い女神を邪険に扱った。ときには激しくぶつかり追い返した。その度に六月の空は涙を流した。流した涙は日本列島に梅雨をもたらした。

そして、ことしも六月がやって来た。ところが六月の女神は、五月下旬にはゼウスの許可を待たずに既に姿を現していた。掟を破った六月の女神にポセイドンは激高した。ポセイドンは六月の女神を遠ざけると、すぐさまその場を離れてラリーニャが暮らすガラパゴスへと旅立った。六月の女神は悲しさのあまり号泣した。流した涙は日本猴枣散列島で豪雨となった。一方ガラパゴスでは海水温が次第に上昇し始めた。このまま行けばウミイグアナの主食である海藻の成育に影響が出る。

ウミイグアナが陸に上がるのは時間の問題となった。これまで、幾度となくウミイグアナは陸に上がってきた。その度に背徳の歴史は繰り返されてきた。混血種のイグアナが誕生する度に、神々が起こした罪の連鎖はエルニーニョ現象となって再び罪の連鎖を引き起こすようになってしまっていたのである。ところが、六月の女神が流す涙は地上界で紫陽花となった。紫陽花はウミイグアナとリクイグアナの混血種の化身として今なお生き続けている。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者shuaigebb 13:10 | コメントをどうぞ

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