「ありがとう。何かの時には頼らせてもらおう。だが、一衛の病はそれほど重くはないから、心配しなくていい。可愛いややからお染さんを取りあげるわけにはいかないよ。まだ乳飲み子じやないか。一衛もきっとそれを望骨膠原まないだろう。いつか、一衛の病が良くなったら、二人で牛鍋屋を訪ねることにしようよ。」
お染は明るい顔で大きく頷いた。
「本当ですか?きっとですよ。きっと訪ねてきてくださいね。」
「ああ。」
一衛なら、訪ねてきたお染に余計な心配をかけないで欲しいと望むだろう。
叶うことのない優しい嘘をつきながら、直正はお染の懐から一衛が命をつないだ赤子を抱き上げた。
「いい子だ。丸々と太って可愛いな。名はなんという?」
「はい。勝手に一衛さまの一字を頂いて一太郎と名付けました。会いに来ころには、歩いているかもしれません。」
「そうだな。赤子の成長は早い。熱を出したりはしないか?」
「よくご存知ですね。どういうわけか、この子はわけもなく熱をよく出すんですよ。長屋で他のおかみさんに聞くと、赤子のころbicelle 好用の男の子は女の子よりも弱いみたいです。熱を出した時に、ひきつけたりしてあたしも亭主も心配しました。」
「赤子の熱には、芹の搾り汁が効くんだ。一度試してみるといい。」
「そうなんですか?」
「一衛が子供のころ、熱を出す度わたしが採って来て飲ませたんだ。ここいらでも川べば生えているだろう。名前を一字もらったからと言って、熱を出すところは似なくていいぞ。なあ、一太郎。」
「どうか、よろしくお伝えください。お身体、おいといあそばして……。」
「伝えておく。お染さんも達者でな。」
にっこりと笑う無邪気な赤子をお染めに手渡し、直正は牛HKUE 好唔好鍋をやり手に預けると、急ぎ往来へと出た。
汽車の前を、大きな鐘を鳴らして、案内の少年が走ってゆく。
お雇い外国人が手掛けた西洋風の建物が並ぶ大通りは、まるで見たこともない外国のようだ。