極寒の襟裳岬にたどり着いたはいいが気温はマイナス20度、おまけに風速20メートルはあるのではないかという突風、体感温度はマイナス30度といったところだ。
ユースで知り合った友達と顔を見合わせてつぶやく。
「ざぶいね??」
「ぶん、ざぶいね??」
寒さで言葉にならない中でニカッと笑うとピキピキッという音がした。
寒さで凍った産毛が笑顔とともに割れる音だったようだ。
そんな旅の途中
この日の宿泊地は浜頓別である。
僕は雄武の駅にいた。
同輩の旅好きの方はお分かりかと思う。
すでに廃線となった興浜南線の終点「雄武」駅と興浜北線の終点「北見江幸」駅間は鉄道空白区間だ、浜頓別に行くにはこの区間をバスに乗る必要がある。
財布をのぞくと軍資金がさびしくなりかけて???
その時ひらめいたこと
「ヒッチハイクしてみようかな???」
「お金も節約できるし???」
学生は決断が早い!
「よし、やってみっぺ!」
というわけで僕は国道に出て通りゆく車を見つけてはアピールを始めた。
道具はかなりでかい段ボールに「北見江幸」とこれまたでかくマジックで書き、ラウンドガールよろしく高々と掲げるというお決まりの戦法だ。
学生は思慮が浅い!
そう上手くはいかないのだ。
まず都会と違って車の通りが圧倒的に少ない、5分に1台通ればいいほうだ。
次に僕は男の子である、これはヒッチハイクにおいて圧倒的に不利な条件であろう、僕がうら若き女性ならばものの10分でエスコートされたにちがいない(それはそれで危ないけど??)
さらに今は真冬の2月である、途中で降ろされたら凍え死ぬ可能性大!
つまり、北見江幸までノンストップで連れて行ってくれることが条件なのだ!
その確率たるや???
1時間??2時間と時間が経ち、通り過ぎた数十台の車。
うち、止まってくれたのはわずかに1台??しかし行先は途中まで??
学生はだんだん弱気になってくる
寒さが足元からじんじんと伝わる。
(ざぶいよー)
このままでは今夜の宿にたどり着くのは難しい??
「仕方ない??興部まで列車で引き返して宿を探すしか??」
そうあきらめかけた時だった。
僕の目の前に一台の軽トラが止まったのだ!
運転席のおじさんが一言「江幸いくべ、乗っか?」
僕は間髪入れずに答えた。
「乗っぺ!!」
おじさんは無口で不愛想だったが僕には女神か天使に見えた。
その後1時間弱、北見江幸の駅まで乗せてもらった僕は天使のおじさんに丁重にお礼を告げ車から降りた。
これが僕の人生で一度きりのヒッチハイク体験だ。
さて、先日一足早い夏休暇を使い30年ぶりに北海道を訪れた。
季節は夏、さわやかな気候と雄大な自然、何もかもが素晴らしい!
僕は思った。
(やっぱり北海道は夏がいいなぁ??)
レンタカーで富良野の辺りを軽快に走っていると、道路沿いに誰かが立っている??どうやらヒッチハイカーのようだ。
僕は反対車線を走っていたため、止まることはせず、ゆっくりと通過、二人組の外国人の女性のようだ。プラカードは残念ながら文字を読み取れなかった。
2~3分走った時??30年前のあのおじさんの思い出がふと頭をよぎった
(あの時の恩返しをせねば???)
僕は車をUターンさせを引き返す。
「いた!」
僕は車を止め、ウインドを開けた。
彼女たちは画用紙に書いた漢字を僕に見せる。
「上富良野町」と太い黒マジックで書かれた文字。
「かみふらーの OK?」
彼女たちが英語で聞いてきた。
(上富良野??すぐそこじゃない)
ものの15分の距離だ??まして助けを求めているのはうら若き女性である。
おじさんへの恩返し+日本人としてのホスピタリティー+男としてのプライド=を見るより明らかである。