月別アーカイブ: 2016年6月

印象に残ったのだそうだ

待っていると生徒たちが三々五々やって来る。かわいそうにみんなびしょ濡れだ。でも生徒たちはそれでも楽しそうで、濡れているのをそれほど厭わず、女の子などはキャッキャキャッキャとはしゃいでいる。

僕はそこでそれまでの報告を班長から受ける。すると、ほぼ全てのグループのほぼ全ての股票分析生徒が同じことを、ある生徒は「楽しそーに」ある生徒は「同情の声を交えて・・」報告するのだ。

「M先生、かわいそ〜」
「M先生、あれ、知らない人が見たら怪しいよ!」
「M先生、顔が青かったー」

そう、それはその日チェックポイント「由比ガ浜」に配置された若手体育科のM先生の姿の報告であった。僕のいる銭洗弁天は雨のしのげる場所がいくらでもあった。しかし、M先生のチェックポイントは由比ガ浜の海岸の砂浜のど真ん中(生徒たちがすぐ見つけられるように)となっていた。

M先生に、折りたたみのチェアーに座り、海岸の一番目立つ場所で生徒を待つように計画したのは何を隠そうこの僕である。そして、M先生はその日、目立つように蛍光オレンジのダウンジャケットに身をまとっていた。朝、集合場所からそれぞれがチェックポイントに向かうとき、M先生は少し憂鬱そうに

「じゃ、行ってきます」とつぶやいていたのを思い出す。

M先生は昼頃から勢いを増した一月の氷雨降る中、一人由比ガ浜の海岸の真ん中で椅子に腰掛け、傘をさしながら蛍光オレンジのダウンジャケットに身を包み、一日中生徒たちを待っていたのだ!

「でも、すぐにわかったよー、あれ戶外証婚目立ちすぎ!」
「怪しい人だよね」
「あれはちょっとかわいそうだよ」

女の子たちはやたら嬉しそうに報告をくれる。なんでも今日見学したどの見学地よりも印象に残ったのだそうだ。

(ごめんね、M先生)

僕は自分の「完全」な計画を反省しつつ、心の中で謝った。

その日の夜、鎌倉遠足打ち上げの宴席でM先生はスターであった。

「いやー、凍え死ぬかと思いました、でも一生忘れられないですね」
「お疲れさん!熱燗好きなだけ飲んでいいから」
「風邪ひかなかったか?なん臉部拉提なら明日休んでいいぞ」
「平気です!」と笑顔でM先生。

遠足の成功も相まって和やかな飲み会となった。

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鏡よ鏡

ジムに通っていた頃、帰りによく買い物をしたスーパーがあった。やめてからは足を向けることもほとんどなかったのだが、今日は近くで用があったので、懐かしさもあって数年ぶりに寄ってみた。
駐車しにくい狭い駐車場もそのPretty renew 旺角ままだった。

高架下にあって、あまり大きなスーパーではないし、客も多くはない。
相変わらず設定温度が低くて冷えそうだわと思いながら商品を見ていると、見たことのある人影に気づいた。
見ると、そちらもわたしを見ている。
鏡だ。
忘れていたけれど、柱が鏡になっているせいで、やたら鏡の多い店だったのだ。

あの頃は、ジムで壁一面の大きな鏡を前にして、帰りにもスーパーでまた鏡を見て(見せられて)いたのだ。
それに比べると、今は我が身を観ることが本当に少なくなった。まあ、見たくもなくなったのだけれど。

懐かしい場所にいると、「ここに来ていた頃のわたし」をいろいろ思い出す。鏡にちらり、ちらりと映るのも、その頃の、屈託だらけだったわたしのPretty renew 旺角ような気がしてくる。まるでお姉さんぶって、過去のわたしと一緒に買い物をしているような……?

それにしても、外で自分を「見る」のは大事なことかもしれない。
家や洗面所でまっすぐ鏡を見るのとは違う。
外に出て、髪がどんな風に崩れるのか、髪色がどんな感じに映るのか、着ている服が少し乱れた感じや、普段の何気ない姿勢、歩き方……気を抜いているときの、正面じゃない自分の姿を見る機会はなかなかない。見て、正すようにしなくちゃと思う。

帰り道、交通量の多い広い交差点で右折待ちの列に並んだ。
なだらかにカーブした下り坂を滑るように戶外証婚直進車がやって来てなかなか途切れない。
この交差点、嫌いだ。ここで右折するのは怖い。
ああ、だからあのスーパーには……と、行かなくなった理由のいくつ目かを思い出していた。

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