月別アーカイブ: 2014年8月

独特の可愛が

今にして思うと不思議なことって、結構ありませんか?
子供の頃に見た、不思議な光景。
当時は、「ふ~ん…」と流していたけど、「あれって…いったい…」と、湧く疑問。

小学生の頃、いつもポケットにミドリガメを入れている女の子が居た。
学校から帰ってから一緒に遊ぼうって話しになると必ず、ポケットにカメを入れて来る。
ウチで遊んでいる間、皿に水を入れて、カメをつけておく。
だが、外で遊ぼうって話しになると、忘れずカメをポケットに…。
なぜそんなにカメを連れて歩くのか、だいたい、そんな状況でカメは幸せなのか…と、当時の私は疑問に思うこともなく、カメを気にすることもなく、ポケットの中がえらいことになっているのではと思うこともなく、
『彼女のポケットにはカメが居る…』 としか思わなかった。

もう1人の女の子は、学校から帰ると、いつも肩に、小さなサルを乗せていた。
その子と遊ぼうと思うと、もれなくサルがついて来て、ず~っと、彼女の肩に乗っていた。
ミニサイズのサルで、なぜ今から30年以上も前に、珍しいサルをペットとして飼っていたのか、そしてなぜ肩に乗せたままどこにでも行くのか…聞かず仕舞いだった。

鬼ごっこをしてる間、彼女の頭にしがみつくサルを見て、気の毒だから置いて来い…とも言わず、彼女とサルはセット…と、普通に思っていた。

彼女達は、ただ、生き物が好きな女の子だったんだろうか、それとも、軽く、ペット自慢をしたかったのだろうか…。

どんな大人になったんだろう。
相変わらず、なにかを飼っていて、独特の可愛がり方をしているのだろうか…。
すごく会ってみたい…。

カテゴリー: gwiroot | 投稿者merrydaki 13:05 | コメントをどうぞ

鶴蔵の楽屋を

弘化四年、この年の鶴蔵達は甲府から信州へと長期巡業に出ていた。途中たちの悪い雲助に付け狙われたりと厄介なこともあったが、概ね興行は成功を収め、ここ七久保の舞台も盛況のうちに幕を閉じた。

鶴蔵さん、お疲れ様でした!今日の舞台も素晴らしかったですよ!

千秋楽の舞台が終わった直後、近くで料理屋・柳川屋を営んでいる善五郎が鶴蔵の楽屋にやってきて鶴蔵にねぎらいの言葉をかける。その言葉に舞台化粧を落とした鶴蔵はほっとした笑顔を向けた。

ああ、善五郎さん。いつも舞台を見に来てくれる上に差し入れまでありがとうよ。江戸の味を懐かしむ若い衆が殊の外喜んでいるんだ

それぞれの土地の美味をありのまま愉しめる鶴蔵と違い、若い役者の中には長旅に飽き江戸の味を懐かしむものも少なくない。その事を鶴蔵が善五郎に言ったら、『以前出稼ぎで江戸に行ったことがありますので』と江戸風の鰹出汁と醤油が効いた煮物や蕎麦を差し入れてくれるようになったのである。
特に収穫時期に当たった新蕎麦は好評で、『江戸で食べるものより美味い』といつも不足するほどであった。

いえいえそんなことはありませんよ。うろ覚えの味で本当に恐縮で

善五郎は照れながら頭をかく。しかしそんな『うろ覚えの味』で満足しないのが善五郎の前にいる男である。

だけど、俺としては善五郎さんの味が食べたいんだよなぁ

すると善五郎は喜色満面の笑みを浮かべ、手をぽん、と叩いた。

そう来ると思いました。今夜辺りどうですか?月見をやりますので宜しかったら匡蔵さんと一緒に。ただちょいと訳ありでお若い方の席がご用意できなかったんですよ。その代わり『お江戸の味』を宿の方へ差し入れさせていただきますので

おう、そりゃいいな。若い奴らも厄介な年寄り抜きのほうが羽を伸ばせるだろうし。じゃあ匡蔵や若い連中には俺から言っておくよ

承知しました。では寒くないよう支度をして夜にいらして下さい。七久保の夜は冷えますので

確かに季節は晩秋の九月、確かに夜になると寒いだろう。

ああ、じゃあ暮れ六ツにそっちに行くから

ではお待ちしておりますね

善五郎は嬉しそうな笑みを浮かべたまま、鶴蔵の楽屋を後にした。

カテゴリー: sheiioo | 投稿者merrydaki 13:05 | コメントをどうぞ