「お母さん・・・?」
入ってきたのは真理子だった。だがその声と同時に紗江子は動かなくなった。智代は天井からぶら下がった紗江子の身体を真理子の方へ向けた。
「クックックッ、ほうら、よく見ろ。おまえの母はいなくなったぞ。ただの躯になった。」
真理子は目の前の母の姿がすぐには理解できない様子で立ち尽くしていた街貨が、目を見開き足をぶるぶると震わすと悲鳴を上げ足から力が抜けたかのようにがくんと崩れ落ち尻を付いたまま後ろに下がった。
「おまえも覚えておけ、私の邪魔をするとこうなるんだ!」
智代の声は届いていないようだが真理子は身体を震わせたまま泣き叫び続け、そ悉尼自由行のまま気を失った。智代は少し首を捻って紗江子を見た。ゆらゆらと揺れる紗江子の目は今にも飛び出しそうにギョロッと見開かれ血がにじみ出ている。舌はだらんと垂れ下がり涎が滴っている。あの美しかった面影はすっかり消え去り醜いただの物体に成り下がった。
(結局、みんなおんなじなんだ。)
中身は智代と何も変わらない、上に被った皮一枚が違うだけで虐げられる者と愛される者が出る。この世は不条理で不公平だ。
(死んだらみんな同じなのに。)
妹を手にかけたときの事を思い出す。何度も殴打したその顔は腫れあがり、肉は裂け、両親が愛したあの可愛い顔はもう何処にも残っていなかった。智代は何かあるといつもあの時の妹の顔を思い出す。あの顔を見た時、親達は一体どんな顔をしたのだろうと思う。それ晚霜を見届ける事をしなかった事が唯一の心残りであった。