音羽はくるりと背を向けた。
聞こえないふり、聞こえないふり。
すっぽんぽんのシミ一つない美肌のアンドロイドが、艶めかしく足をひらいて股間にエロ下着を当てて、いかがですかと見せた。足を開けば丸見えぱんつって、いっそ穿かなくてもいいんじゃね?
まじ、鼻血噴くわ……。こいつと、一つ寝台で眠るなんて…拷問かよ。目が覚めた音羽は、一瞬自室にいるのを疑った。辺り一面、白い煙が立ち込めていた。
煙の向こうにアンドロイドが呆然とした様子で佇んでいた。
「AU……じゃない…あっくん!無事なのか?」
「ご主人様……。すみません。」
「何があったんだ?何か焦がしたのか、これ。」
白い身体に薄いベビードールのネグリジェを身に着けたヴィーナス……あっくんは、どうやら何か失敗したらしい。
「鮭の塩焼きと、目玉焼きを作ろうとしたのですが……。」
「その格好で……?」
あっくんの視線が、皿の上に移動した。卵が異様にふるふると揺れている。
「これを、電子レンジに……。」
「まさか……生卵を入れたのか!?」
「はい。」
「早く、こっちに来い!」
あっくんを抱えテーブルの下に潜ったのと、卵が爆発したのがほぼ同時だった。卵は破裂して、辺りに木端微塵となり飛び散った。
「きゃあ~。」
すみません……と、しょんぼりとうつむいたアンドロイドのあっくんは、ひどく悲しそうに見えた。頬を結露がころころといくつも転がってゆく。
モニターしたお手伝いロボットは、簡単な目玉焼きもまともにできない出来損ないだった……ということなのか。鮭の切り身は見事に炭化していた。
惨憺たる有り様のキッチンを眺めて、アンドロイドは小刻みに震えていた。
「ご主人さまに……喜んでいただこうと思ったのですが……上手くいきませんでした。」
「あっくん。怪我はしなかった?」
「……アンドロイドですから。」
「そうか、そうだったね。でも、ここの所、赤くなってるよ……?」
「最新型ですから、痛みは感じませんが、ほぼ人と同じ成分の表皮なのです。」
「そう……。痛くないんなら良かったよ。」
痛みはないと言うが、おそらくいくつかの火傷をこしらえているのだろう。あっくんは、頭から細かな卵のみじん切りをかぶったようになっていて音羽はバスルームへと連れ込んだ。
「水は平気?シャワーを使いたいんだけど。」
「高性能ですから、完璧に防水されております。」
着ても脱いでも意味の無いネグリジェと下着を脱がせ、細い絹糸のような金色の髪についた卵の落としてやりながら、音羽はアンドロイドの指先に傷があるのを認めた。
「絆創膏……?」
「これは……あくまでも人らしくあるために、傷の修復は時間がかかるようになっています。」
「そう?」
シャワーを掛けると、下肢の紅色のオプションがふるりと揺れた。思わず手を伸ばして、弾力を確かめた。蠟引ようななめらかな質感を、手のひらに握り込んで確かめてみる。ぐん……と、嵩を増したのに音羽はどこか嬉しくなってしまった。
「ご主人様……あの……。いけません。」
「ん?」
「お出かけにならないと。お時間だと思います。」