月別アーカイブ: 2021年6月

泣きそうな顔で、ギュッとしがみつく

「…っ」

 

泣きそうな顔で、ギュッとしがみつく。

 

牙蔵は醒めた心で、微笑んだ。

 

「んぁ…っ」

 

姫がおさまったところで、またゆっくり動くと、我慢できない吐息が姫の口から漏れた。

 

カタン…と襖の向こうで音がする。

 

「…姫様?」

 

侍女の声だ。

 

牙蔵は少しおどけるように目を開き、わざと襖の方を見てから首をかしげて美和を見つめた。

 

『どうすんの?俺は別にばれてもいいけど』というように。

 

美和は焦って、赤くなって声を出す。

 

「だ、大丈夫です、何も」

 

「姫様?さっきから何か変な音が…入ってもよろしいですか?」

 

「ダメ!なりません」

 

美和が声を張ったところで、グッと腰を推し進める。

 

「…んうっ!」

 

涙目で牙蔵を見上げる美和に、牙蔵は意地悪く微笑んだ。

 

「姫様?どうかされましたか」

 

「っ…少し、1人にしてください。…泣いて…っ…いたのです」

 

「…姫様…」

 

「お願いっ…今日だけ…は」

 

「………わかりました…」

 

侍女が次の間から外へ出て行く気配がした。

 

侍女が起きているのに、加減なく美和を攻めた牙蔵を、美和は恨めしそうに見つめる。

 

「意地悪なお方…」

 

「よく言われる」

 

牙蔵は姫を抱え起こして後ろ向きに寝かせた。

 

「…何を…」

 

「気持ちいいこと」

 

そのまままた繋がると姫はすぐにビクビクと痙攣した。

 

「…あっ」

 

おさまる前に動くと、苦しがってジタバタと手足を動かす。

褥に押さえつけて、上から攻める。

 

「んあっ…あ…あ…あ…」

 

何度も痙攣して、姫はぐったりとなった。

 

牙蔵は姫からスッと離れて、その背中を撫でる。

 

 

「…あなたの…お名前を」

 

荒い息がおさまる頃、姫はとろんと潤んだ瞳で牙蔵を見上げる。

 

「…」

 

答えない無表情な牙蔵を美和は見つめる。

牙蔵の着物は乱れていない。最中も、息さえ乱れていなかった。服を全て脱いでいるのは、自分だけなのだ。

 

「…あなたは…悪い方なの?」

 

牙蔵は片方だけ口角を上げた。

 

「そうだね」

 

美和はガバッと起きて、牙蔵にしがみついた。

 

「だとしても…いい。

 

あなたが誰でも…いい。

 

また、会えますか…会って、くれますか…」

 

「…」

 

牙蔵は無表情で、ピクリとも動かなかった。

 

「もう遅い。…眠るといい」

 

スルッと頭を撫でると、とたんに美和の目がトロンとなった。

 

自分に体重を預けて、気を失うように眠りに落ちた美和を、牙蔵はゆっくり褥に横たえた。

 

「…」

 

 

月が雲に隠れる頃ーー闇に紛れて牙蔵は沖田の城を出た。

 

屋根から塀、塀から大きな木に飛ぶ。

 

ーーと

 

「…」

 

城の庭から、まっすぐこちらを見ている男と視線がぶつかる。

 

「ーー…」

 

沖田の忍だ。

 

雰囲気から、かなりの手練れなのはわかった。

 

「…」

 

牙蔵は視線を絡めて、臨戦態勢に入るーーが、

 

その男は、視線を外すと、踵を返して行ってしまった。

 

「…」

 

深追いは無用ーー牙蔵もまた、音もなくその場を後にしたーー。ーーーーー

 

軍議は遅くまであったようで、それでも夜に、仁丸と信継が揃って詩の離れに来た。

 

きちんと3人分用意された食事。

 

信継が、包みを手に、詩に渡す。

 

「桜、これ…やる」

 

「あ…ありがとう、ございます」

 

両手で受け取ると、仁丸が信継を睨んだ。

 

「桜、当然僕からもあります」

 

仁丸からも、包みを渡される。

 

「ありがとうございます」

 

「先に、開けてみてください」

 

仁丸からウキウキした表情で言われ、詩は包みを開ける。

 

「…」

 

中身は、髪結いに使える、美しく編まれた幅の広い組みひもだった。

色とりどりの糸が、丁寧に編み込まれている。

 

「母からです。『寵姫の桜姫によろしく』と」

 

「とてもきれい、です

 

仁丸様のお母様が作って下さった大事なものを、

 

私がいただいてもよろしいのでしょうか…」

 

「もちろんです」

 

仁丸が胸を張る。

 

「ありがとうございます、大切にします」

 

詩は頭を下げた。

 

「ま、俺のも開けてくれるか、桜」

 

信継が詩をじっと見る。

 

詩は頭を下げて、信継の包みも開ける。

 

「…」

 

中身は、たくさんの種類の、美しいお菓子だった。

 

「きれいですね…こんなにたくさん…ありがとうございます」

 

信継がボソッと呟く。

 

「ああ。

 

桜は…その、アレだからな」

 

「…?」

 

詩が首をかしげると、信継が赤くなって鼻を掻いた。

 

「その…まだ子どもみたいに…カラダが小さいからな…

 

もうちょっと、…成長しないと」

 

とたん、何を言われたかわかって、詩は羞恥心で、ボッと赤くなった。

ほんの昨日の、洞窟でのことが蘇る。

裸の肌と肌が触れ合い、きっと全て見られていたーー

 

仁丸は、詩と信継を交互に見て、怪訝な顔をしている。

 

「まあ、その…なんだ。

桜はまだ成長期だから…

 

早く、…大きくなれ、…よ?」

 

「…っ」

 

詩は真っ赤になって思わずプイっと信継から顔を背ける。

 

「桜?どうしたんですか」

 

仁丸が不思議そうに詩を見た。

 

「…知りません…」

 

詩は赤くなっている。

 

信継も赤くなって、頭を掻いた。

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そう言うとクービルは剣を手放し

そう言うとクービルは剣を手放し、崩れ落ちるように横たわった。

「後で人を寄越して、丁寧に埋葬させる。あばよ。」

ハンベエはクービルに軽く会釈してエレナの待つ陣地に戻って行った。

 

「しかし、見えるもんだな。くっきりと見えたぜ。」

本陣に向かいながら、ハンベエは思いだしたように独り言を言った。

はて、見えるとは何の事か。或いはハンベエはクービルの放った真空の刃が見えたのだろうか。見えないと断言は出来ない。空気は見えないとされるが空中には様々な微粒子が浮いているはずである。埃などは眼に明らかであるが、他のものも多数有るはずだ。それらの物は実は意識されないだけで眼に映っているいるのかも知れない。真空の刃は空気に裂け目を生じる。とすれば、そこだけが周りの空気と異なった状態になる。それをハンベエの異常に研ぎ澄まされた感覚が捉えた、という事は有り得る。 いずれにしても途中までは互角の勝負であった。クービルが必殺と信じて両撃風刃殺を出そうとせず、通常の攻撃防御に努めていたら勝負はどう転んだか分からない。とハンベエは思っていた。

(生と死を分けたのは結局運か? クービルが必殺技などに頼らぬもっと辛抱強い、用心深い性格であったら、或いは敗れていたやも知れぬ。)

勝負の後の反省はハンベエの癖である。感心な事にまだ修行中の心は消えていないようであった。

「ハンベエ、生きてるって事は勝ったって事だな。」

王女の天幕の前でまだ立っていたヒューゴが声を掛けて来た。

「当たり前じゃないかあ。ハンベエが負けるわけなんて無いよお。」

ヒューゴの隣でロキが当然のように言う。天幕の周りには侍女達が閉め出されたままであった。かなりの時間が経っているはずであったが。

「王女は。」

ハンベエは首を捻って誰ともなく尋ねた。

「待っておいでだよ。ハンベエが来たら、中に入ってもらうようにとの事だ。」

ヒューゴが答えた。腕を振るう相手をハンベエに持って行かれた憤懣か、少し面白く無さそうである。

黙って、ハンベエは天幕の中に入っていった。

エレナは天幕の中央で端座し、膝にハイジラの頭を乗せて彼女の髪を撫でていた。ハイジラが裸にされたのかどうか不明だが今は服を着ていた。

「又斬り合いをされていたようですね。」

入って来たハンベエを見てエレナは言った。別に咎める気は無いようで、他意の無い口調だ。

「うん、相手は十二神将のクービルって奴だ。もう片付けたが、王女の首を取りに来たって言ってたいた。」

「それでは私が御相手をしてあげなければいけなかったのでは。」

思わぬ言葉がエレナの口を突いて出ていた。冗談めかした声音ではなく、かと言って文句がある様子でもない。ただふと思った事を言ってしまったという様子であった。

「うーん、無礼な事を言ってしまうけど、王女の手にはまだ荷が重かったかも知れない。」

「そうですか。今回もハンベエさんのお陰で命拾いと言う事ですね。重ね重ねお礼を言います。」

「うん、素直に礼の言葉を貰って置こう。」

とハンベエは言った。気のせいか、眼前のエレナに以前に比べて明るい雰囲気を感じて皮肉を言う気も失せてしまっていた。

「それで、その娘。」

とハンベエは話を変えた。「衣服を脱がせて調べました。ハンベエさんの心配していた物はこれ一つですね。服の襟の内側に縫い付けられた鞘に収まっていました。」

エレナは柄も併せて十五センチほどの細身の短剣を手に取って見せた。切っ先の鋭い両刃の物で、柄まで一体の鉄で出来ている。

「一本だけか。守り刀と言ったところか。」

「それより、この子の身体ですけど、あちこちに小さな切り傷、刺し傷が有りました。どれももう塞がっている古いものですけれども。」

「なるほど。」

とハンベエは腕を組んだ。あの異常なハイジラの脅えよう、『お仕置き』という言葉。

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