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しかしまた、何故彼等はノコノコ戻って来たのだろう?

しかしまた、何故彼等はノコノコ戻って来たのだろう?権門の府は衆怨を被り易く、まして徴税吏は怨嗟の的。武力も無く、ただ権力のみで高みに位置し、その座を滑り落ちた猿がどんな目に逢うか想像出来なかったのであろうか?実は嫌われ者の身であった事を知らなかったのであろうか?返す返すも哀れを留める話であった。私利を貪っていたのは幹部のみでは無かった。上がこうである。王国湊b課程金庫の吏員は役得と称して、多かれ少なかれ不正に加担し、利益を享受していた『いっその事、全部追い出してしまおう』とロキは提案したが、『それでは徴税業務に差し支える。兵士にそんな仕事をさせても絶対に上手くはいかない。一罰百戒を以て事を収めよう。』とモルフィネスが不問に付したのであった。ロキもそれもそうかと納得した様子であった。こうして、ハンベエはどうにかこうにか戦費調達問題に目処をつけたのである。王国金庫には金貨80万枚以上が貯蔵されていた。守備軍陣地に戻ってハンベエに報告を行ったモルフィネスは最後に一言付け加えた。「ロキが居なかったら、どうなった事やら。これほど上手く事が運んだのは全てあの少年の手柄だ。これからは私もロキに対する侮りを改める事にする。」これに対し、ハンベエは珍しく相好を崩した。鮮やかなほど嬉しそうな顔付きであった。で、今回の主役ロキがその頃どうしていたかと言うと、王女エレナを尋ねて自分の手柄話を吹き捲っていたのである。王国金庫の特別監査に名を借りた吸収劇に先立ち、タゴロロームを後にし、不穏な空気立ち込めるゲッソリナに向かった人間がいた。イザベラである。モルフィネスの参入を受け入れたその日の夜、ハンベエの要請に従ってイザベラは軍司令官執務室にやって来た。「来たよ、ハンベエ。アタシに頼みって?」「早速だが、ゲッソリナに戻ってステルポイジャン達の動向を探って貰えないだろうか?今日動くか明日動くかと戦々恐々のこちらを知ってか知らずか、兵を動かしたと云う風聞すら聞こえて来ない。随分と気になるのだ。」「ふーん、それでアタシに探って来いと。他の奴じゃ駄目なのかい。第一諜報活動なら、モルフィネスが群狼隊を使ってやってるようじゃないか。」「敵の内情を見極めるのは、それなりの奴でないと信が置けない。」「いいのかい?ハンベエには随分と貸しが貯まってるんだけど、このまま行くとアタシへの借りでがんじがらめになるよ。アタシはその方が有り難いけど。」イザベラは妖しく微笑みながら、ハンベエに擦り寄った。ハンベエは困ったように見返した。この妖気かと思えるほどフェロモン満載のイザベラの誘惑に何処まで耐えられるのか、かなり自信が無くなって来ている。その内にパックリ喰われてしまうのでは、とハンベエは不安である。だが、何故誘惑に耐えねばならないのだろう?その答はハンベエ自身分からない。分からないが、この若者は強情に耐えようと心を定めていた。そうは言ってもイザベラの事が嫌いなのではなかった。今はそんな場合ではないと思うばかりだ。「いずれ、この乱も収まり、共々生きてあれば、ゆるりと物語りでも交わしながら、借りを返したいものと考えている。」「およ?ハンベエにしてはロマンチックなセリフだね。上出来だよ、アハハ。」「そもそも、これは王女の為でもあるんだぜ。」「解っているよ。じゃあ、明日早朝、司令部の屋根の上で待っていて。ちょっと準備する事が有るから。」イザベラはそう言って部屋を立ち去った。明けて早朝、ハンベエは司令部の屋根に登った。司令部は石造りである。屋根は平板で、人が歩けるようになっていた。いわゆる陸屋根と呼ばれる形であり、司令部内部から階段で屋根に出る事ができる構造になっていた。囲いのない屋上と言った形である。

カテゴリー: 未分類 | 投稿者laurie6479 23:08 | コメントをどうぞ