日別アーカイブ: 2017年3月13日

れても偽んだ養

散々に打ちのめされた不甲斐なさに、信長は信雄に激しく憤り、2年後にはおよそ4万の兵を率いて自ら伊賀に攻め込んだ。
これを第二次天正伊賀の乱というが、この時、織田に加担していた甲賀忍者の手引きによりさらに伊賀では体制に不満を抱く離反牛奶敏感者が出た。露草を育てた父は、織田方の蒲生氏郷の軍勢の道案内をおこなった裏切り者の中の一人だった。

場所の特定すら困難だった伊賀の里も、道案内を得て難所を潜り抜けさえすれば、多勢に無勢だった。
武勇に優れた蒲生氏郷の攻めにより、伊賀の人々が立て籠もった城は次々と落ち、最後の砦?柏原城が落ちた時点をもって天正伊賀の乱は終わりを迎えた。
織田信長の鬼の所業は、里に住む女子供に至るまで及び、その年の彼岸花は流された血を吸って、見たこともないほど鮮やかな深紅に畦(あぜ)を染めた。

露草の実兄、蘇芳が火ぶくれを負って息絶え絶えであったとき、水を含ませたのは不倶戴天の敵、織田信長の家嬰兒敏感臣蒲生氏郷であった。戦果の確認に里へ入り、思いがけず赤子を託された。
抱いた赤子を、蒲生は道案内の草に渡した。
何も知らず、一族の敵を主家に持ち、懸命に修行に耐えた露草。
本多の下で陽忍となった露草の働きは、目覚ましかった。
時代は移り、残酷な天下人の命は腹心の裏切りで潰えた。
織田が滅び、秀吉の天下となり、やがて徳川が牙をむき反旗を翻す。
蒲生も彼岸の人となった。

徳川の懐刀として仕える本多が、伊賀の忘れ形見を雇い入れることを望み、儚い露草の名を露丸と変え傍に置いた。
自在に顔を変え年齢や性別すら父も驚く変化(へんげ)の技は、本多が抱えた各地の忍びも舌を巻くほどのものだった。
露草は、後にその手口から?郭公」とあだ名される、手練れの忍者になっていた。

「露丸。褒美をやろう。望むならば、一国なりともくれてやるぞ。」

「本多さま。つゆの欲しいものは、変わりませぬよ。」

命一つに、報酬は金平糖一握り。
本多は懐の紙包みをほおった。

容易く人を垂らす露丸の氷の美貌は、仲間内で敬意を込めて、「傾城」けいせい(国を傾けること)と呼ばいた。顔色母乳餵哺も変えず敵中に入り込み、内側から瓦解した。
一握りの甘い砂糖菓子と引き換えに、露丸は躊躇なく身体を汚し、惜しげもなく命を削った。
何ものにも執着しない無情の露丸の刃に、無垢な命が幾つも散った。
人を殺めるたびに、心の内で何かが軋む音がしたが、やがていつかむせ返る血の臭いにも馴れた。
脆い感情に蓋をして、クナイを振るう。修羅を行くこの世の鬼の姿は美しく輝くばかりだった。
いつかこの先、自分があれほど慕った義兄の命すら奪うことになると、今の露丸は知らない。

カテゴリー: 未分類 | 投稿者carrytion 13:21 | コメントをどうぞ