日別アーカイブ: 2020年12月12日

そこから積丹に到着するまでの間

そこから積丹に到着するまでの間、私たちは依織のどこが好きなのかを思う存分語り合った。「私は依織の唇が好きなんだよね。ちょっと厚めで、リップ塗らなくても綺麗な色してるの。何度キスしたいと思ったことか」「お前、今までよく我慢してきたな。キスなんて、女同士なら酒で酔っ払えばノリで出来るチャンスあるだろ」「バカなこと言わないで。好きな相手にノリでキスとか、あり得ないでしょ。それに、私どんなに酒飲んでも酔えないから」「確かに」酔ったフリをして依織の唇を奪うなんて、考えたこともない。そういう狡いことだけは、したくなかった。豪華 遊艇 、積丹に着いたらどこに向かえばいいんだろ」「ちょっと七瀬に電話してみて」甲斐に言われ、依織に何度か電話を掛けてみたけれど、一向に出る気配がない。こうなったら、もう手掛かりはあの人から得るしかなかった。久我さんにどこにいるのかラインを送ると、一分もかからずに返事がきた。綺麗な夕焼けが見える絶景スポットにこれから向かうらしい。恐らくこれから依織にフラれると彼もわかっているはずなのに、そんな状況でも雰囲気を重要視するのが久我さんらしいと感じた。私はすぐにその場所を甲斐に伝え、車を走らせた。それから二十分後、ようやくその場所に到着し車から降りると、久我さんに抱き締められている依織の姿が目に飛び込んできた。「七瀬!」私よりも先に依織の名前を叫んだのは、甲斐だった。突然現れた甲斐と私を見て、依織は目を丸くして驚いている。反対に久我さんは、私たちが来ることを知っていたからいつもの余裕の表情で出迎えた。「甲斐も蘭も……どうしてここに?」「お前、何でスマホ繋がらないんだよ。どこかに落とした?」「え?スマホはバッグの中に入れてあるけど……それより二人とも、どうして?」私は、まだこの状況を飲み込めていない依織に近付き、耳元で囁いた。「依織、私に感謝してよ。あんたと甲斐の二人にとって最高のきっかけを私が作ってあげたんだからね」「待ってよ、何を言ってるのか意味が……」「じゃあ、頑張って。私はこのまま久我さんに送ってもらうから」これでいい。この行動を、私はきっと後悔しない。長年大切にしてきた初恋は、今日で終わらせるのだ。「久我さん、私も乗せてもらっていい?」「まさか、本当に乗り込んでくるとはね」「何言ってるのよ。こうなるってわかってたくせに」私は半ば強引に、彼の車の助手席に乗り込んだ。遠くから、依織と甲斐の姿を見つめる。あの二人は、確実に今日これから互いの想いを伝え合うだろう。嬉しそうに涙を流す依織の姿を想像しただけで、胸の奥がじわりと温かくなった気がした。「せっかくだし、どこかに寄って帰ろうか。どこか行きたい所ある?」「……久我さんの告白の邪魔をしたことは、悪いと思ってる。ごめんなさい」謝るくらいなら、するべき行動ではなかったと非難されても仕方ない。それなのに、久我さんは私に怒りをぶつけるようなことはしなかった。「君が僕に謝る必要はないよ」「え……」「僕は僕で、自分の思うように行動した。君は君の思うように行動した。お互い、自分の気持ちに素直になって行動しただけだよ。だから、謝らなくていい」「……」久我さんは、とても大人だと思う。自分もとっくに大人だけれど、思考はまだまだ幼稚な部分がある。でも彼は、何に対して怒るべきなのか、何に対して謝るべきなのかをちゃんと知っている。いつも間違えてばかりいる私とは、根本的に違うのだ。「それに正直に言うと、君が現れたとき少しホッとしたんだ」「え?どうして……」「どうしてかな。君の顔を見て、張り詰めていた気が緩んだのかもね」

カテゴリー: 未分類 | 投稿者laurie6479 22:21 | コメントをどうぞ