「あー……もう……何やってんだ、私……」

「あー……もう……何やってんだ、私……」確かに涙は消え去っていたはずだったのに、どうしてあの場面で泣いてしまったのだろう。あの人に渡したくない。甲斐は私の目を見て、ハッキリとそう言った。無針埋線效果、キスを受け入れようとする前に、私は自分の気持ちを伝えるべきだったんだ。涙を流している場合じゃなかったのに。「青柳も……部屋を出てから言ってよ……」真白さんから連絡がきている。ただそれだけのことで、こんなにも不安になり、こんなにも胸が苦しくなってしまう。私は布団の中に潜り込み、深い溜め息をついた。その日は結局、気持ちを伝えられなかった後悔に押し潰され、少しも眠れなかった。ただ、私を見つめる甲斐の不安げな瞳だけが、ずっと胸の中に残っていた。「あー……もう……何やってんだ、私……」確かに涙は消え去っていたはずだったのに、どうしてあの場面で泣いてしまったのだろう。あの人に渡したくない。甲斐は私の目を見て、ハッキリとそう言った。あのとき、キスを受け入れようとする前に、私は自分の気持ちを伝えるべきだったんだ。涙を流している場合じゃなかったのに。「青柳も……部屋を出てから言ってよ……」真白さんから連絡がきている。ただそれだけのことで、こんなにも不安になり、こんなにも胸が苦しくなってしまう。私は布団の中に潜り込み、深い溜め息をついた。その日は結局、気持ちを伝えられなかった後悔に押し潰され、少しも眠れなかった。ただ、私を見つめる甲斐の不安げな瞳だけが、ずっと胸の中に残っていた。一泊の温泉旅行を終え、私は甲斐が運転する車で実家まで送ってもらった。でも、昨夜の話の続きをすることはなかった。二人きりではなかったからだ。「まだ少し熱あるんだから、今日はゆっくりしてろよ」「うん、わかった。甲斐も蘭も、いろいろ心配かけてごめんね」「まさか風邪でもないのに熱出すとは思わなかったけどねー。疲れが溜まってたんじゃない?本当にゆっくり休んだ方がいいよ」甲斐と蘭は、だいぶ遅くまで飲んでいたみたいだけれど、全く二日酔いはしていないのか元気な様子だ。「じゃあ甲斐、次は私の家まで送って」「桜崎の家遠いから面倒なんだけどな」「文句言わずに送って。依織、じゃあねー!」私は手を振りながら、立ち去る甲斐の車を見送った。昨夜の話の続きは出来なかったけれど、今この場に蘭がいてくれて良かったと思った。今朝、甲斐の態度が少し私を避けるようなものに変わっていることに気付いてしまったのだ。気のせいだと言われれば、そうなのかもしれない。でも、気のせいだとはどうしても思えなかった。「ただいま」「お帰り、依織。温泉は楽しかった?」実家に帰宅した私を迎えてくれたのは、母だった。「はい、これお土産。皆で食べて」「ありがと。こういう定番の温泉まんじゅうが一番嬉しかったりするのよね。今お茶入れるから、食べて行けば?」「うん」実家に預けられていたもずくは、ゲージの中で私の姿を見つけ嬉しそうに尻尾を振っている。私はもずくを抱きかかえ、ダイニングの椅子に座った。そこからキッチンに立つ母の背中を見つめながら、子供の頃の記憶を思い出していた。私が子供の頃、母は仕事を掛け持ちしていたためほとんど家にいることがなかった。キッチンに立つのは、私の役目だった。そのせいか、たまの休みに母がキッチンに立つ姿を見ることが私は密かに好きだった。母が家にいることが、何より嬉しかったのだ。「で、旅行はどうだったの?甲斐くんとか蘭ちゃんたちと一緒に行ったんでしょ?」「楽しかったよ。温泉もやっぱり凄く気持ち良かったし。でも、昨日の夜急に熱出しちゃって……結局温泉は一回しか入れなかった」「あら、じゃあきっと今、何かに凄く悩んでるのね」「え?」母はお茶を私に差し出し、私の目の前の椅子に座った。「依織は昔から、何か悩み事があるとすぐ熱出してたのよ。すぐお腹もこわすしね」子供の頃から何も変わっていないことに恥ずかしさを感じながらも、急に熱を出してしまった原因が自身の悩み事に直結しているのだと知り納得した。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者laurie6479 17:46 | コメントをどうぞ

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