月曜日 成人の日 気温低し
ホームコートのイベントに息子と参加、終日楽しむ。
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皮肉な恩返し
これはそう遠くない昔、ある出来損ないの鴉の話。
その出来損ないの鴉「ヒビキ」と燕や雀の村がありました。
ヒビキは物心ついた頃に両親を人間達に殺されてしまい、独りボッチでした。
そんないつも独りでいるヒビキに雀の「ルリ」が言いました。
「あなた、鴉なのに黒くないのね」た
確かにヒビキの羽は灰色に近い色でした。ヒビキはまだ羽が生え替わっていなかったのです。
そんないつも一日なにもせず枝に停まっているだけのヒビキに燕の「キキョウ」が言いました。
「お前、鴉なのに飛べないんだな」
確かに羽の生え替わっていないヒビキはまだ空を飛べません。飛び方を教えてくれるはずだった両親はもういないからです。
そして、ルリとキキョウが言いました。
『あなた・お前は本当にムラサキね・だな』
出来損ないのヒビキはその『ムラサキ』の意味を知っていました。
『ムラサキ』とはあの綺麗な色「紫」のことをいっているのではなく。斑が多い、汚い色・汚いやつという意味の『斑咲き』という、同情と憐れみを込めたあだ名であることを知っていました。
毎日毎日、上から石や枝を落とされる日々。時にはけがをしたこともありました。
でも、ヒビキはその場から動きません。どんなに石や枝が顔の近くを掠めても、一歩もその場から動こうとしないのです。
最初はそんなヒビキを面白がって、繰り返し繰り返し石や枝を落とし続けていたルリとキキョウの仲間も、そのうち飽きてなにもしなくなりました。
ある嵐の日、ヒビキはいつもと同じようにユラユラ揺れる枝の上に停まっていました
ポタポタとヒビキの顔に雨が当たっては落ちて行きます。
このヒビキが停まっている枝からは、一度は行ってみたいなと思っている大きな木と、綺麗な川が見えます。
今日、その川は嵐のせいで黒く濁り、流れも速く、水の量なんて見たこともないようなものになっていました。
ずっと同じ場所からその川を見ていたヒビキは、何故かとても裏切られたような気持ちになりました。
ふと、ヒビキが視線を川の河口付近に逸らすとルリとキキョウの姿が目に飛び込んできました。
ルリが増水した川に落ちてしまったようでした。必死にルリを助けようとするキキョウがルリと一緒にどす黒い液体に飲まれていくのと同時に、ヒビキはその川に向かって飛び降りました。
ヒュルルルルとヒビキの翼が音をあげます。
そして、ヒビキをも飲み込んでしまわんと黒々した川が渦を巻きます。
でもヒビキはそんな川を見ても怖いとは思いません。逃げたいとは思いません。それどころかヒビキは、水面すれすれで体勢を持ち直して、水面と平行に飛びだしました。
そして、すぐにルリとキキョウを見つけ出し大きな爪で二人を救いだしました。
ヒビキは二人を危険のない場所まで連れていくと、その横にそっと座りました。
二人はどちらも大事には至っていないようで、小さな胸を上下させていました。
すると不意にルリが目を閉じて言いました。
「あなた、鴉なのに黒くないのね」
ルリはあのときと同じ口調でした。
ヒビキの翼は白く、その翼に水を滴らせ全身は銀色の膜に覆われているようでした。
するとキキョウが目を閉じて言いました。
「お前、鴉なのに泣くんだな」
キキョウはあのときとは全然違う、とても優しい口調でした。
ヒビキは知らず知らずのうちに、透き通った黒く大きな眼から涙を流していました。
ルリとキキョウは同時に言いました。
「ヒビキ、強くなったわね・な」
ヒビキは泣きながら声を震わせて言いました。
『二人とも、何で目を閉じているのに俺をわかってしまうんだ』
ルリとキキョウはニッと笑ってただ一言。
『当たり前でしょ・当たり前だろう?』