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ほとんどうわの空で言うと

「不親切で、口が堅くて、よそよそしくて、団結心が強く、秘密主義ときてる。ドラスニア北東部のやつらはどいつもこいつも、ドラスニア王国の重大な秘密をすべて袖の中に隠し持っているようにふるまう」
「かれらがセ?ネドラをこうも憎む理由はなんなんだろう?」ガリオンはとまどいぎみに眉をひそめた。
「この暗殺者がドラスニア人だったという事実はそれほど重要じゃないとお清數れは思うね、ガリオン」シルクが言った。「暗殺者を雇う人間はえてして他国の人間を雇うものだ――それに、世界に暗殺者ははいて捨てるほどいるが、女の暗殺者はきわめて少ない」シルクは考えこむように口をひき結んだ。「ひとつレオンまで行って、ようすを見てくるとしよう」
 冬の寒さが本格化すると、ポルガラはようやくセ?ネドラが危機を脱したことを宣言した。「でも、もうしばらくここにいることにするわ」彼女はつけくわえた。「ダーニクもエランドも数ヵ月はわたしなしで大丈夫だし、今帰っても、うちに着くが早いか回れ右をしてここへ戻ってくるはめになるでしょうからね」
 ガリオンはぽかんとしてポルガラを見つめた。
「あなただって、セ?ネドラの最初の赤ちゃんをわたしが他人に取り上げさせるとは思わないでしょう?」
 エラスタイドの祝祭の直前になって大雪がふり、傾斜の急なリヴァの街路は文字どおり通行不能になった。セ?ネドラはめだって不機嫌になった。おなかがますます大きくなって思うように動けないのと、街路にふりつもった深い雪のために城塞から一歩も外に出られなくなったせいだった。ポルガラは小さな王妃のかんしゃくや発作的な大泣きがどんなにひどくても、表情ひとつ変えずに冷静に受け止めた。あるとき彼女は辛辣な口調でたずねた。「この赤ちゃんがほんと禿頭にほしいんでしょうね?」
「もちろんだわ」セ?ネドラはぷりぷりして答えた。
「それじゃ、がまんしなけりゃだめよ。がまんすることが保育室をむだにしないただひとつの方法なんですからね」
「わたしをなだめようなんてなさらないで、レディ?ポルガラ」セ?ネドラはいきまいた。「今のわたしはききわけよくできる気分じゃないの」
 ポルガラがかすかにおもしろがっているような目を向けると、セ?ネドラは思わず吹き出した。「わたしってわがままね」
「ええ、ちょっとね」
「自分がすごく大きくて醜いような気がするせいなのよ」
「そのうちもとどおりになるわ、セ?ネドラ」
「ときどき卵を産めたらよかったと思うの――鳥がやるように」
「わたしなら昔ながらの方法で産むわね、ディア。第一、あなたは巣にすわっていられるタイプじゃなさそうよ」
 エラスタイドの日がきて、平穏に過ぎた。リヴァにおけるその祝祭はあ香港國際學校たたかみのあるものだったが、いくらかひかえめでもあった。まるで全国民が息をつめて、もっとずっと大きな祝祭のきっかけを待ち受けているかのようだった。冬は週ごとに深まって、すでに膝丈に積もった雪にさらに雪をくわえた。エラスタイドがおわって一ヵ月ほどすると、一時的に日がさしてふつかあまり晴天がつづいたが、それもつかのまふたたび凍りつくような寒気がいすわって、ぬかるんだ雪の土手を氷のかたまりに変えた。数週間がのろのろと過ぎ、だれもが首を長くして待った。
「ちょっとあれを見てよ」ある朝、目がさめてまもなくセ?ネドラが怒ったようにガリオンに言った。
「あれって、ディア?」ガリオンはおだやかにたずねた。
「あれよ!」彼女はうんざりしたように、窓を指さした。「また雪だわ」その声には非難がにじんでいた。
「ぼくのせいじゃないよ」ガリオンは弁解ぎみに言った。
「だれがあなたのせいだと言って?」セ?ネドラはぎごちなく向きを変えてガリオンをにらみつけた。小柄なせいで、ふくらんだおなかがいっそう大きく見え、彼女はそれをときどきかれひとりの責任だといわんばかりにガリオンにむかってつきだすのだった。
「たえられないわ」セ?ネドラはきっぱり言った。「どうしてあなたはわたしをこんな凍りつきそうに寒い国へ――」セ?ネドラは急にだまりこんだ。奇妙な表情が顔をよぎった。
「だいじょうぶかい、ディア?」
「ディアはよしてちょうだい、ガリオン。わたしは――」セ?ネドラはまた口をつぐんだ。「あ、ああ」彼女は息をあえがせた。
「どうした?」ガリオンはたちあがった。
「ああ」セ?ネドラは両手を背中にあてて言った。「ああ、ああ、ああ」
「セ?ネドラ、ああばっかりじゃわからないよ。どうしたんだ?」
「横になったほうがよさそうだわ」セ?ネドラは、よちよちと部屋をよこぎろうとして、たちどまった。「ああ」一段と力をこめて言った。血の気のひいた顔で椅子につかまり体をささえた。「レディ?ポルガラを呼んでくださったほうがいいと思うわ、ガリオン」
「え――? ということは、つまり――?」
「ごちゃごちゃ言ってないで、ガリオン」セ?ネドラはひきつった声で言った。「そこのドアをあけて、あなたのポルおばさんを呼びにいかせればいいのよ」
「きみが言おうとしているのは――?」
「言おうとしてるんじゃないわ、ガリオン。そう言ってるのよ。いますぐ彼女をここへ呼んできて」セ?ネドラはよたよたと寝室のドアへ向かいかけてまた立ちどまり、ちいさな喘ぎをもらした。「ああ、どうしよう」
 ガリオンはつんのめるようにドアにかけよって、ぐいとドアをあけた。「レディ?ポルガラを呼んでくるんだ!」仰天している歩哨に言った。「ただちにだ! 走れ!」
「はい、陛下!」歩哨は答えるなり、槍をなげだして廊下をかけだしていった。
 ガリオンはばたんとドアをしめると、セ?ネドラのそばにとんで戻った。「なにかできることはないか?」両手をもみしだきながらたずねた。
「ベッドへ連れていって」
「ベッドだな! わかった!」ガリオンはセ?ネドラの腕をつかんでひっぱった。
「なにをしてるの?」

カテゴリー: 未分類 | 投稿者awkwardgut 11:52 | コメントをどうぞ