これまでもしょっちゅうあっ

「どこへ行かれるのですか」騎士はたずねた。
「今にわかるわよ」彼女は馬の向きを変えると、ひしめきあう軍団めがけて、山腹を駆け登っていった。マンドラレンはやれやれといったおももちで、バラクと視線を交わし、鎧をが

ちゃがちゃいわせながら鞍にまたがり、後に従った。
 先頭にたつセ?ネドラは注意深く胸元の護符に指先をあてた。「レディ?ポルガラ」彼女はそっと呼びかけた。「わたしの声が聞こえて?」果たして護符が思うとおりの働きをしてく
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れるかどうか、彼女にはわからなかったが、今はこれに賭けるしかないのだ。「レディ?ポルガラ」彼女はいくらか前よりも緊迫した声で呼びかけた。
「いったい何をしようというの、セ?ネドラ?」小さな王女の頭の中に、ポルガラの声がはっきりと聞こえた。
「わたしはこれからトルネドラ軍を説得するのよ」セ?ネドラは答えた。「かれら全員に、わたしの声が聞こえるようにしてくださる?」
「いいわよ。でもあなたのお国の人たちは、愛国的な演説に見向きもしないと思うわ」
「わたしには別の考えがあるのよ」セ?ネドラは自信ありげに答えた。
「あなたのお父上が発作を起こしてるわよ。口から泡をふいていらしてよ」
 セ?ネドラは悲しげなため息をついた。「わかってるわ」彼女は答えた。「興奮するとよくそうなるのよ。モリン卿がお薬を持っているわ。お願いだから父が舌を噛まないようにして

あげてちょうだい」
「あなた、わざとかれを怒らせたのね? セ?ネドラ」
「どうしても軍団を説得する時間がほしかったのよ」王女は答えた。「発作はそれほど深刻なものじゃないわ。たのよ。終わると鼻から血を流して、ひどい頭痛を起こすわ。お願いだからおとうさまの面倒をみてあげてね。わたし、おとうさまを愛しているのですもの」
「わたしがやるべきことはわかったわ。でもこのことについては、後であなたとよく話しあった方がよさそうね。世の中にはやってはいけないこともあるのよ」
「でも他にどうしようもなかったのよ、レディ?ポルガラ。これもみなガリオンのためなのですもの。わたしの声が、トルネドラ軍に一人残らず聞こえるようにして下さるわね。これはとっても大切なことなのよ」
「わかったわ、セ?ネドラ。でも、くれぐれも軽はずみは慎んでちょうだい」そして声は聞こえなくなった。
 セ?ネドラは目の前にずらりと並んだ軍勢をさっと一瞥し、そこになじみの第八三軍団の紋章を見つけると、その前に乗り入れた。彼女の顔を知り、その身分を他の軍団に知らしめて

くれるような人物の前に行くことが、どうしても必要だったからである。もともとこの第八三軍団というのは、儀礼用の軍隊であり、伝統的にかれらの兵舎はトル?ホネスの王宮内にあ

った。かれらは選ばれた者たちの集まりであり、代々世襲され、宮殿で近衛兵を務めてきたのである。セ?ネドラ自身、第八三軍団の兵士たちすべての顔を見知っていたし、ほとんどの名前も知っていた。彼女は自信たっぷりに近づいていった。
「アルボー大佐」彼女は第八三軍団の隊長に向かって、優雅なものごしで挨拶した。かっぷくのいい、赤ら顔の、こみかめのところに灰色のものを混じえた男だった。
「これは王女さま」大佐もまたうやうやしげに頭を傾けてみせた。「あなたさまのお姿がないので、ずいぶんさびしい思いをいたしておりましたぞ」
 だがセ?ネドラにはそれが嘘だということがわかっていた。彼女の護衛をする任務は、兵舎内のサイコロばくちの賭けの対象になっていたのだ。護衛の栄誉は常に敗者に与えられてい

た。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者blankgut 16:23 | コメントをどうぞ

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