月別アーカイブ: 2016年7月

おれは戦士だ

いたるところに戦士がいて、戦う物音がしていた。逃げだした当初、ガリオンの計画は単純だった。バラク側の戦士を見つけさえすれば、安全なはずだった。ところが、宮殿にいるのはバラクの戦士たちだけではなかった。ジャーヴィク伯爵が南の廃墟と化した翼から小隊を率いて宮殿にはいりこみ、猛烈な戦いが廊下でくりひろげられていたのだ。
味方と敵の見分けようがないことにガリオンはすぐ気づいた。かれにはチェレクの戦士はみんな同じに見えた。バラクか、知った顔のほかのだれ避孕 藥かを見つけられないかぎり、みなの前に出ていくわけにいかなかった。敵ばかりか味方からも逃げているといういらだたしさが恐怖心をあおった。バラクの部下ではなくてジャーヴィクの小隊にとびこんでしまう可能性は大いにあったし――いかにも起こりそうなことですらあった。
会議室へまっしぐらにひき返すのが一番てっとり早かったのだろうが、アシャラクから逃げるのにけんめいで、たくさんの薄暗い通路を走り、たくさんの角を曲がったために、ガリオンは自分がどこにいて、どうすれば宮殿の見なれた部分へ戻れるのかわからなくなっていた。やみくもに逃げるのは危険だった。アシャラクやかれの手下がガリオンをつかまえようとどの角に待ちかまえているか知れたものではなかったし、つかまれば最後、ポルおばさんが手をふれて打ち砕いたあの奇怪な絆をマーゴ人はたちまち築きなおしてしまうだろう。それだけはなんとしてでも避けなくてはならなかった。ひとたびガリオンをわがものにしたら、アシャラクは今度こそ逃がさないにちがいない。ガリオンにとって残された唯一の手段は、隠れ場所を見つけることだった。
別の狭い通路にとびこんだガリオンは、立ちどまって息をきらしながら石壁にぴったり背中を押避孕 藥しつけた。通路のずっと先に、幅の狭いすりへった石の階段がらせんを描いて上へ伸びているのが、ゆらめく一本の松明の明かりの中でかすかに見てとれた。高いところにのぼれば、それだけだれかと出くわす危険はへりそうだと即断した。戦いは、もっぱら下の床の上でおこなわれるにきまっている。大きく息を吸うと、ガリオンは階段の下にすばやく近づいた。
半分のぼったところで計画に落とし穴があったことに気づいた。階段にはわき道がない。逃げこむ道も隠れる場所もないのだ。いそいでてっぺんまでのぼらないと、発見されてつかまってしまう――あるいはもっとまずいことにさえなりかねない。
「小僧!」下から叫び声がした。
ガリオンはすばやく肩ごしに下を見た。鎖かたびらと兜に身を固めた恐ろしげな顔つきのチェレ避孕 藥ク人が剣を抜いて階段をのぼってくる。
ガリオンは階段をかけのぼりはじめた。

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上から別の叫び声がして、かれは凍りついた。てっぺんにも下にまさるとも劣らぬ残忍そうな戦士がいて、獰猛そうな斧をふりまわしている。
はさみうちになってしまったのだ。ガリオンは短剣をまさぐりながら石壁に身をよせたが、それがほとんど役立たないことはわかりきっていた。
そのとき二人の戦士が互いの存在に気づいた。両者は怒声をあげて突進した。剣の戦士はガリオンには目もくれずに階段をかけあがり、一方、斧の戦士はかけおりてきた。
斧が大きく空をきり、石壁に衝突して火花がとびちった。剣のほうが狙いは正確だった。恐ろしさに総毛立ったまま、ガリオンは突っこんできた斧の戦士の身体を剣が貫くのを見た。斧が音をたてて階段をころげ落ち、戦士は敵の上におおいかぶさったまま、腰のさやから幅広の短剣をひきぬいて、敵の胸に突き立てた。ぶつかりあった衝撃で両者は足を踏みはずし、もつれあったまま階段をころげ落ちた。短剣がいくどとなくひらめいて互いの身体に突き刺さった。
ガリオンはいいしれぬ恐怖に身をすくませてかれらが目の前を落ちていくのを見守った。胸の悪くなる音とともに短剣が突き立てられ、赤い泉のように二人の傷口から血がほとばしった。
一度は吐きそうになったが、歯をくいしばって階段をかけあがり、頻死の二人が下方で続行する血も凍る殺戮の物音に耳をふさごうとした。
見つかるまいとする考えは、もう消しとんでいた。ガリオンはただ走った――アシャラクやジャーヴィク伯爵からというより、階段のあの恐るべき遭遇戦から逃げるために。どのくらいたったのだろう。息をきらしてようやく、半開きのドアから使われていない埃っぽい部屋にとびこんだ。ドアをしめると、ガリオンはふるえながらそれにもたれた。
部屋の一方の壁に大きなたわんだベッドが押しつけられ、同じ壁の高い位置に小窓がひとつあった。壊れた椅子が二脚、両隅に力なく立てかけてあり、もう一方の隅には蓋のあいた衣裳箱がひとつ、それが家具のすべてだった。少なくともその部屋は残虐な男たちの殺し合いがおこなわれている廊下からは、はなれていたが、外見上の安全が単なる幻想であるのにガリオンはたちまち気づいた。だれかがこのドアをあけたら、かれは袋のネズミなのだ。ガリオンは死に物狂いで埃っぽい部屋を見まわしはじめた。
ベッドと反対側のむきだしの壁にカーテンがかかっていた。その陰に戸棚か隣室でもあるのかもしれないと思いつつ、部屋を突っきってカーテンを寄せてみた。開口部があらわれた。だがそれは別室につづいているのではなく、暗くて細い通路に通じているのだった。通路をのぞきこんでみたが、墨を流したような真っ暗闇で、ほんの少し先までしか見えなかった。武装した男たちに追われてその暗闇を手探りで逃げることを考えて、ガリオンは身ぶるいした。
ひとつしかない窓をちらりと見あげたかれは、その上に立って外がのぞけるように、部屋の向こうから重い衣裳箱をひきずってきた。もしかすると、今いる場所の手掛かりになるようなものが窓から見えるかもしれない。ガリオンは箱によじのぼると、爪先立って外を見た。
塔があちこちにそびえ、その周囲をアンヘグ王の宮殿の回廊や廊下の石板ぶきの長い部屋が囲んでいた。絶望的だった。見おぼえのあるものはなにひとつない。部屋のほうに向き直って衣裳箱からとびおりようとしたとき、ガリオンは突然棒立ちになった。床にぶあつく積もった埃の中に、自分の足跡がくっきり残っている。
あわててとびおりて、長らく使われていないベッドから当てぶとんをつかんだ。それを床に広げて部屋中をひきずりまわし、足跡を消した。だれかが部屋に隠れていた事実まで隠すわけにいかないのはわかっていたが、その大きさを見ればアシャラクやかれの手下に、ここにひそんでいたのが大人ではないといっぺんにばれてしまう足跡を抹殺することはできた。消しおわると、当てぶとんをベッドの上に投げ戻した。仕事は完壁ではなかったが、少なくともやらないよりはましだった。
そのとき、外の廊下で叫び声がして剣のふれあう音が聞こえた。
ガリオンはひとつ深呼吸をして、カーテンのうしろの暗い通路にとびこんだ。
いくらもいかないうちに、鼻をつままれてもわからないような闇が細い通路をおし包んだ。クモの巣が顔にひっかかって肌がむずむずし、でこぼこの床から長年の埃が舞いあがって息が詰まりそうになった。廊下の戦いから少しでも遠ざかりたい一心で、はじめは大急ぎで進んだが、そのうちつまずいて、一瞬どこかへ落ちていくようなひやりとする気分を味わった。闇の中へ落ちこんでいる急階段がちらりと頭にうかび、こうあわてていたら、とんでもないことになりかねないと気づいた。ガリオンは片手で壁の石をたどり、片手で低い天井からびっしりさがっているクモの巣を顔の前から払いのけて、もっと慎重に歩きはじめた。
闇の中にいると時間の感覚がなかった。永遠につづいていそうな暗い通路を何時間も手探りで進んだかと思われるころ、用心していたのに、ざらざらした石壁にぶつかってしまった。彼は一瞬パニックに襲われた。通路はここでおしまいなのだろうか? 罠だったのか?
そのとき、目の隅に薄明かりが見えた。通路は終わったのではなく、右へ急な角度で曲がっているのだった。はるか向こうに明かりらしきものが見え、ガリオンはほっとしてそれをめざして歩を進めた。
明かりが強まるにしたがってかれは足を速め、すぐに光源にたどりついた。それは壁の下のほうにある細長い穴だった。埃だらけの石の床に膝をついて、かれは中をのぞきこんだ。
大きな広間が下方に見えた。中央のへこみで火がいきおいよく燃え、ガリオンのいる場所よりもっと上にある丸天井の開口部に向かって煙がたちのぼっている。その位置からだとずいぶんようすがちがって見えたが、かれはそれがアンヘグ王の謁見の間であることにたちまち気づいた。見おろすと、ローダー王の肥った姿や、やや小柄なチョ?ハグ王の姿、そしてそのうしろにはいついかなるときでもひかえているヘターがいるのが目にとまった。王座から少しはなれてフルラク王がミスター?ウルフと話しており、そのそばにポルおばさんがいた。バラクの妻がイスレナ王妃としゃべっていたし、ポレン王妃とシラー王妃が二人からあまり遠くないところに立っていた。シルクが警備の厳重なドアをときおりちらちら見やりながら、神経質に床をいったりきたりしていた。ガリオンは安堵が湧きあがるのをおぼえた。もう大丈夫だ。
かれらに呼びかけようとしたとき、大きなドアがバタンとあいて、鎖かたびらをつけて剣を手にしたアンヘグ王が、バラクと〈リヴァの番人〉をしたがえて、大股にはいってきた。二人に両側からつかまれてもがいているのは、ガリオンがイノシシ狩りの日に森で見た亜麻色の髪の男だった。
「この裏切りは高いものにつくぞ、ジャーヴィク」王座に近づきながら、アンヘグが冷酷な口調で肩ごしに言った。
「では終わったの?」ポルおばさんがたずねた。
「もうじきですぞ、ポルガラ」アンヘグは言った。「宮殿の一番奥まったところでわたしの家来がジャーヴィク一味の最後の一人を追いかけている。もっとも、警告がなかったら、事態はまったくちがっていたかもしれん」
大声を出そうかどうか迷っていたガリオンは、もうしばらく黙っていることにした。
アンヘグ王は剣をさやにおさめ、王座にすわって言った。「やらなけりゃならんことをする前に、ちょっと話をしよう、ジャーヴィク」
バラクとかれとほぼ同じくらい力のあるブランドに掴まれていた亜麻色の髪の男は、無益にじたばたするのをあきらめ、挑むように言った。「何も言うことはないね、アンヘグ。運にさえ恵まれりゃ、今ごろはおれはおまえの王座にすわっていたんだ。思いきってやってはみたが、これで一巻の終わりよ」
「そうでもないぞ」アンヘグは言った。「くわしいことが知りたい。しゃべったほうが身のためだ。どうせしゃべることになるんだからな」
「もっともひどいことをするがいいさ」ジャーヴィクはせせら笑った。「しゃべる前に舌をかみきって死んでやる」
「それには気をつけよう」アンヘグは冷たく言った。
「その必要はないわ、アンヘグ」ポルおばさんがゆっくり捕虜に歩みよりながら言った。「説明するのにもっと楽な方法があります」
「おれは何もしゃべらないぜ」ジャーヴィクは言った。「おまえなどこわくない、妖術使いめが」
「思った以上に愚か者だな、あんたは、ジャーヴィク卿」ミスター?ウルフが言った。「わしがやったほうがよくはないか、ポル?」
「わたしでもやれるわ、おとうさん」彼女はジャーヴィクを見すえたまま言った。
「慎重にな」老人は警告した。「おまえは極端に走ることがある。わずかな接触でじゅうぶんだぞ」
「自分のしていることぐらいわかっているわよ、老いぼれ狼」辛辣に言うと、ポルおばさんは捕虜の目をひたと見つめた。
ガリオンは依然身をひそめたまま息を詰めた。

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わしのあとを追わせようじ

「すばやくわしが拾った。あの子にはかわりにセンダリア銅貨を与えたよ。もしあのマーSCOTT 咖啡機ゴがグロリムなら、ゃないか。数ヵ月はまちがいなく楽しませてやれるぞ」
「では、行ってしまうの?」ポルおばさんの声はなぜかさみしげだった。
「しおどきだ」ウルフが言った。「あの子は今のところここにいればまず安全だし、わしはこの国を出なければならん。とりかからねばならんことがあるのだ。マーゴどもが人里離れた場所にあらわれると、胸が騒ぎはじめる。われわれははかりしれぬ責任と務めをかかえている。油断は許されない」
「長く留守にするの?」
「数年というところだろう。調べなくてはならんことが多くあるし、会わねばならん人が大勢いる」

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「心細いわ」ポルおばさんはそっと言った。
老人は笑った。「感傷か、ポル? おまえらしくもない」ウルフはそっけなく言った。
「わたしの言う意味、わかっているでしょう。あなたや他のみんなSCOTT 咖啡機に与えられたこの仕事にわたしは向いていないのよ。幼い男の子の養育について、わたしが何を知っていて?」
「おまえはよくやっとるよ。あの子から目を離さんことだ。そしてかれの性格にひっぱりまわされてヒステリーを起こさんようにな。注意しろ、あの子は堂々たる嘘をつくぞ」
「ガリオンが?」ショックをうけた声だった。
「このわしですら感心するような嘘を例のマーゴ人につきおった」
「ガリオンが?」
「両親のことも質問しはじめたよ。おまえはどこまで話したんだね?」
「ほんの少しよ。かれらが死んだことだけ」
「さしあたってはその程度にとどめておこう。まだうまく乗り越えられる年齢でもないのに詳しい話をしたところで意味がない」
二人の話し声はつづいていたが、ガリオンは再びうとうとしはSCOTT 咖啡機じめ、九割がた、これはみんな夢なんだと考えた。
しかし翌朝目をさますと、ミスター?ウルフはいなくなっていた。
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あるいはもう気が

スパーホークははっとして目を覚ました。驚いたことに、鞍の上に座っている。馬を進めているのは風の吹きすさぶ断崖の上で、はるか眼下には波が岩に砕けて、怒れる海が白く牙をむいていた。空には不気味な雲が垂れこめ、海から吹いてくる風は身を切るように冷たい。先頭を進むのはセフレーニアで、その腕にはしっかりとフルートが抱かれていた。ほかの者たちはスパーホークのあとから一列になって続いている。誰もがぎゅっとマントを身体に巻きつけ、顔にはじっと耐えるSCOTT 咖啡機ような表情を浮かべていた。みんなそろっているようだ。カルテンもクリクも、ティニアンもアラスも、ベリットもタレンもベヴィエも。馬は長い切り立った崖沿《がけぞ》いの、曲がりくねった道を登りつづけている。行く手には海に向かって突き出した、曲がった石の指のような岬が見えた。岩の岬の先端でねじくれた木が一本、しきりに枝を風になびかせている。

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セフレーニアはその木の手前で馬を止め、クリクが進み出てフルートを受け取った。従士は顔を硬くこわばらせ、スパーホークの横を通り過ぎるときも、話しかけてこようとはしなかった。何かがおかしい。ひどくおかしい。だがスパーホークには、どこがおかしいのかを指摘することはできなかった。
フルートが口を開いた。
「これでいいわ。ここに来てもらったのは、今度の一件に最後の方をSCOTT 咖啡機開箱つけるためよ。ただ、時間があまりないの」
「方をつけるというのはどういう意味です」ベヴィエが尋ねた。
「わたしの家族は、ベーリオンを人にも神にも手の届かないところへやってしまうべきだという結論に達したの。誰もそれを探し出したり、使ったりできないところに。この使命を達成するのに、家族はわたしに一時間の猶予と、すべての力を与えてくれた。あなたがたはあり得ないことを目にするかもしれない。ついているかもしれないわね。でもそういったことは気にしないで、それから、わたしを質問攻めにするのもやめてちょうだい。そんな時間はないのよ。探索を始めたとき、わたしたちは十人だった。今も同じ十人がそろってる。そうでなくてはならないの」
「海に投げこもうってことか」とカルテン。
フルートがうなずくと、アラスが口を開いた。
「同じことになるんじゃないか。ヘイド伯はサラク王の王冠をヴェンネ湖に投げこんだ。それでもベーリオンは、ふたたび姿を現わした」
「海はヴェンネ湖よりずっと深いし、とくにこのあたりは、世界じ腰痛治療ゅうでいちばん深いところなの。ここがどこの岸辺なのか知ってる人もいないわ」
「おれたちは知ってる」とアラス。
「そう? どこなの? 何という大陸の、どのあたり?」フルートは流れていく厚い雲を指差した。「太陽も見えないわ。どっちが東で、どっちが西? あなたたちに確実に言えるのは、どこかの海岸にいるってことだけよ。誰に話してもらっても構わないわ。すべての人間が明日からいっせいに海をさらいはじめたとしても、ベーリオンは見つからない。どこを探せばいいのか、正確なことは誰にもわからないんですからね」
「海に投げこめばいいんだな」スパーホークが馬を下りながら尋ねた。
「いえ、まだよ。その前にやることがあるの。持っててくれるように言った袋を出してくれるかしら、クリク」
クリクはうなずいて自分の去勢馬に戻り、鞍袋を開いた。またしてもスパーホークは、何かがおかしいという強い違和感を覚えた。
クリクは小さな帆布の袋を持って戻ってきた。袋の中には小さな鋼鉄の箱が入っていた。蝶番《ちょうつがい》式の蓋と、頑丈な掛け金がついている。従士はそれを少女に差し出した。
「わたしは触りたくないの。ただちゃんとしてることを、この目で確かめたかっただけ」少女は身を乗り出し、じっくりと箱を検分した。クリクが蓋を開けると、内側に金が張ってあることがわかった。「さすが兄さん、いい仕事だわ」
「鋼鉄はいずれ錆《さ》びるぞ」とティニアン。
「いいえ、ディア、この箱は決して錆びません」セフレーニアが答えた。
「トロール神はどうするのです、セフレーニア」ベヴィエが尋ねる。「トロール神が人間の心に手を伸ばしてくることができるのは、もうわかっています。また誰かに呼びかけて、この箱が隠されている場所に導こうとするのではありまぜんか。永遠に海の底にいるのを喜ぶとは思えないのですが」
「トロールの神々も、ベーリオンの助けがなくては人間に手を出すことはできません。そしてベーリオンは鋼鉄の箱の中にある限り無力です。この世界が創られてからグエリグが掘り出すまで、サレシアの地下深くで鉄に囲まれて、何もできなかったのですからね。絶対に安全だと言いきることはできませんが、これ以上は手のつくしようがないでしょう」
「箱を地面に置いて蓋を開けて、クリク」フルートが指示する。「スパーホーク、ベーリオンを袋から出して、眠るように言ってちょうだい」
「永遠に?」
「それはどうかしらね。この世界はそれほど長くはもたないし、そのあとベーリオンは、また自由に旅を続けられるようになるはずだから」
スパーホークは腰から袋をはずし、鉄線をねじって口を開いた。袋を逆さにして、手の中にサファイアの薔薇を落とす。鉄の牢獄から出された宝石が、一種の安堵に身震いするのが感じられた。

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