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け入れるしかあるま

ブランドの顔は相変わらず石のように固く、背を向けてかたくなに沈黙を守っていた。
「ベルガリオンはわたしを許してくれました。父上にもどうかお許しをいただけないでしょうか」
「だめだ」ブランドはしわがれ声で言った。「わたしにはできん」
「お願いです、父上」オルバンは哀願した。「わたしのために涙を流してはいただけないのですか」
「一滴たりともごめんだ」ブランドはそう言ったが、アリアナにはかれの言葉が嘘だということがわかっていた。灰色の衣をまとった、むっつり顔の男の瞳は涙であふれていたのである。だがその表情は大理石のように変わらなかった。それ以上何も言わずに、かれは大股で天幕から歩み去った。
オルバンの兄弟たちは、やはり無言のままかわるがわる弟の手を握りしめ、父の後を追って出ていった。
オルバンは静かにすすり泣いていたが、体力の消耗とアリアナの与えた薬が、しだいに悲しみを奪い去っていった。かれはなかば意識を失いかけながら寝台に横たわっていたが、最後の力をふりしぼって身を起こし、ミンブレイトの娘を手招きした。彼女は怪我人のかたわらにひざまずき、片方の肩に腕をまわしてささえ、不明瞭な言葉を聞き取ろうと顔を近づけた。「お願いがある」かれはつぶやくように言った。「どうか女王陛下にわたしが今父上に言ったことと、わたしがいかに申しわけなく思っているかを伝えてはもらえないか」そのとたん、かれの頭はがっくりとアリアナの方に垂れ、若者は娘の腕の中で静かに死んでいった。
だがアリアナには悲しんでいる暇はなかった。ちょうどそのとき、ブレンディグ大佐が三人のセンダー人に運ばれて、天幕の中に入ってきたからである。大佐の腕はまったく回復の見込みがのぞめないほど、潰されていた。
「われわれは、街へ通じる橋を壊していたのです」センダー人のひとりが簡潔に報告した。
「どうしても倒れない支柱が一本あったので、大佐殿自らその柱を切り倒そうとなされたのです。ようやくそれを倒したとき、大佐殿がその下敷きになられました」
アリアナは憂いの色を浮かべてブレンディグの潰れた腕を調べた。「残念ですが、もはや手の施しようがありません」彼女は言った。「壊疽を起こしているので、命を救うためには、切り落とさなければならないでしょう」
ブレンディグは落ち着きはらった顔でうなずいた。「たぶん、そんなところだろうと思っていた」とかれは言った。「ならば、それを受いな」

「見えたぞ!」ローダー王が下流を指さしながら叫んだ。「煙だ――それも緑色の! あれこそ合図だ。われわれは撤退を開始できるぞ」
ヴァラナ将軍は上流の河岸をじっとながめていた。「残念ながらもはや遅すぎるようですな、陛下」かれは静かな声で言った。「マロリーとナドラクの大軍が、ちょうど西方の河岸に到着しました。どうやらすっかり退路を断たれたもようですな」

カテゴリー: 未分類 | 投稿者blankgut 11:57 | コメントをどうぞ