日別アーカイブ: 2016年7月6日

あるいはもう気が

スパーホークははっとして目を覚ました。驚いたことに、鞍の上に座っている。馬を進めているのは風の吹きすさぶ断崖の上で、はるか眼下には波が岩に砕けて、怒れる海が白く牙をむいていた。空には不気味な雲が垂れこめ、海から吹いてくる風は身を切るように冷たい。先頭を進むのはセフレーニアで、その腕にはしっかりとフルートが抱かれていた。ほかの者たちはスパーホークのあとから一列になって続いている。誰もがぎゅっとマントを身体に巻きつけ、顔にはじっと耐えるSCOTT 咖啡機ような表情を浮かべていた。みんなそろっているようだ。カルテンもクリクも、ティニアンもアラスも、ベリットもタレンもベヴィエも。馬は長い切り立った崖沿《がけぞ》いの、曲がりくねった道を登りつづけている。行く手には海に向かって突き出した、曲がった石の指のような岬が見えた。岩の岬の先端でねじくれた木が一本、しきりに枝を風になびかせている。

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セフレーニアはその木の手前で馬を止め、クリクが進み出てフルートを受け取った。従士は顔を硬くこわばらせ、スパーホークの横を通り過ぎるときも、話しかけてこようとはしなかった。何かがおかしい。ひどくおかしい。だがスパーホークには、どこがおかしいのかを指摘することはできなかった。
フルートが口を開いた。
「これでいいわ。ここに来てもらったのは、今度の一件に最後の方をSCOTT 咖啡機開箱つけるためよ。ただ、時間があまりないの」
「方をつけるというのはどういう意味です」ベヴィエが尋ねた。
「わたしの家族は、ベーリオンを人にも神にも手の届かないところへやってしまうべきだという結論に達したの。誰もそれを探し出したり、使ったりできないところに。この使命を達成するのに、家族はわたしに一時間の猶予と、すべての力を与えてくれた。あなたがたはあり得ないことを目にするかもしれない。ついているかもしれないわね。でもそういったことは気にしないで、それから、わたしを質問攻めにするのもやめてちょうだい。そんな時間はないのよ。探索を始めたとき、わたしたちは十人だった。今も同じ十人がそろってる。そうでなくてはならないの」
「海に投げこもうってことか」とカルテン。
フルートがうなずくと、アラスが口を開いた。
「同じことになるんじゃないか。ヘイド伯はサラク王の王冠をヴェンネ湖に投げこんだ。それでもベーリオンは、ふたたび姿を現わした」
「海はヴェンネ湖よりずっと深いし、とくにこのあたりは、世界じ腰痛治療ゅうでいちばん深いところなの。ここがどこの岸辺なのか知ってる人もいないわ」
「おれたちは知ってる」とアラス。
「そう? どこなの? 何という大陸の、どのあたり?」フルートは流れていく厚い雲を指差した。「太陽も見えないわ。どっちが東で、どっちが西? あなたたちに確実に言えるのは、どこかの海岸にいるってことだけよ。誰に話してもらっても構わないわ。すべての人間が明日からいっせいに海をさらいはじめたとしても、ベーリオンは見つからない。どこを探せばいいのか、正確なことは誰にもわからないんですからね」
「海に投げこめばいいんだな」スパーホークが馬を下りながら尋ねた。
「いえ、まだよ。その前にやることがあるの。持っててくれるように言った袋を出してくれるかしら、クリク」
クリクはうなずいて自分の去勢馬に戻り、鞍袋を開いた。またしてもスパーホークは、何かがおかしいという強い違和感を覚えた。
クリクは小さな帆布の袋を持って戻ってきた。袋の中には小さな鋼鉄の箱が入っていた。蝶番《ちょうつがい》式の蓋と、頑丈な掛け金がついている。従士はそれを少女に差し出した。
「わたしは触りたくないの。ただちゃんとしてることを、この目で確かめたかっただけ」少女は身を乗り出し、じっくりと箱を検分した。クリクが蓋を開けると、内側に金が張ってあることがわかった。「さすが兄さん、いい仕事だわ」
「鋼鉄はいずれ錆《さ》びるぞ」とティニアン。
「いいえ、ディア、この箱は決して錆びません」セフレーニアが答えた。
「トロール神はどうするのです、セフレーニア」ベヴィエが尋ねる。「トロール神が人間の心に手を伸ばしてくることができるのは、もうわかっています。また誰かに呼びかけて、この箱が隠されている場所に導こうとするのではありまぜんか。永遠に海の底にいるのを喜ぶとは思えないのですが」
「トロールの神々も、ベーリオンの助けがなくては人間に手を出すことはできません。そしてベーリオンは鋼鉄の箱の中にある限り無力です。この世界が創られてからグエリグが掘り出すまで、サレシアの地下深くで鉄に囲まれて、何もできなかったのですからね。絶対に安全だと言いきることはできませんが、これ以上は手のつくしようがないでしょう」
「箱を地面に置いて蓋を開けて、クリク」フルートが指示する。「スパーホーク、ベーリオンを袋から出して、眠るように言ってちょうだい」
「永遠に?」
「それはどうかしらね。この世界はそれほど長くはもたないし、そのあとベーリオンは、また自由に旅を続けられるようになるはずだから」
スパーホークは腰から袋をはずし、鉄線をねじって口を開いた。袋を逆さにして、手の中にサファイアの薔薇を落とす。鉄の牢獄から出された宝石が、一種の安堵に身震いするのが感じられた。

カテゴリー: 未分類 | 投稿者blankgut 13:26 | コメントをどうぞ