日別アーカイブ: 2016年8月1日

オープニング・ダンス

「それでは、ただいまより、本年度、文化祭スタートです。みなさん、これからの二日間、大いに楽しみましょう」
生徒会長と入れ違うようにして、オープニングの美麗華投訴ダンス部のショーが始まった。
ダンサーたちが登場し、激しいリズムの音楽に合わせて、回転し、飛び跳ね、伏せ、舞う。踊り浮かれる。
それぞれの持ち場へ向かうことなく見物している生徒たちの間から、自然と手拍子がおこり、ダンサーたちを囃し立て、さらに高揚させる。普段以上の演技を引き出し、それがさらに、手拍子の音を大きくしていく。
何度も曲が変わりながら、ダンス部の部員であるダンサーたちがこの半年間みっちりと練習してきたそれぞれの技を披露していく。
技が決まるたび、あるいは、姿勢を美しくたもってポーズを決め静止するたび、講堂中から拍手が沸き起こる。
本当に、いやが上にも盛り上がっている。舞台の上も、客席も熱気に包まれている。
それを講堂の隅から眺めながら、ずっと俺は唇をかんでいた。
自然にあふれる涙を止めることもできずに。

俺が怪我したのは、本番三日前のことだった。
その日の練習を終えて、二人の仲間と一緒に校門を出た直後だった。
最寄りのコンビニへの近道なので、途中にある児童公園の中を歩き抜けようとした時だった。
――ニャー ニャー
かすかに頭上から猫の鳴き声が聞こえてくる。
声にひかれて顔を上げると、すぐ傍の高い木の枝の上に小動物の陰が見える。子猫だ。

「あっ、あの子、もしかして下りられなくなったんじゃない?」
「かもな」
心配そうな顔でその子猫を見上げている中原の横で、俺はうわの空で返事をしていた。興味が糖尿眼なかったわけじゃない。単純に、近くに台になりそうなものはないかと探していたのだ。もちろん、そんなのはそう都合よくそこらに転がってなんかいない。
「久保? お前んち、この近所だったよな? 梯子かなにかないか?」
俺の質問に、久保が少し考えてから、
「ああ、たぶん、裏の物置の中にあると思うぜ」

「じゃ、それ取りに行こうぜ」
「ん? 川本、あの猫助けてやるつもりか?」
「ああ、もちろん」
「そっか。わかった。なら、ついてこい。こっちだ」
そうして、俺たちが久保の家へ向かい、物置から梯子を担いで、公園まで戻ってきたのだ。
――ニャー ニャー
盛んに鳴いているが、子猫は相変わらず枝の上で固まったまま。
「久保、下、押さえててくれ」
「おう」
「中原はカバン頼むわ」
「うん、分かった。任せて」
そうして、俺は木に立てかけた梯子を上っていく。すぐに枝に手が届く。さらに腕を伸ばして、子猫の震えている体を抱き上げた。あったかい。

ホッと息を吐きつつ、子猫を片手でしっかり抱きかかえて、下へ降りて行く。
久保の手の届きそうなところまできたので、子猫を久保の方へ、
「久保、頼む」
渡そうとしたのだが、その途端、ギョッとした表情を糖尿眼浮かべて、久保は激しく後ろへ飛び退いた。下で梯子を支えていた久保。その久保が不意に大きく跳ねた。当然、その反動で梯子が大きく揺れる。危険なほど傾く。そのまま、横倒しになり・・・・・・

カテゴリー: 未分類 | 投稿者nbvkjud 11:13 | コメントをどうぞ