日別アーカイブ: 2016年8月8日

かべて――それからと

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「わたしたちが一緒に〈ドリュアドの森〉で水浴びをしたときのこと覚えている?」
「一緒になんか入っちゃいない」ガリオンは髪の毛のつけ根までまっ赤にしながら、慌てて否定した。
「あら、似たようなものじゃない」彼女はあっさりとかれの異議をし消化系統りぞけた。「レディ?ポルガラが旅のあいだずっと、わたしたちをくっつけようとしてたことに気づいていた? あの人にはこうなることがわかってたのね。そうじゃなくて?」
「うん」ガリオンはみとめた。
「だからずっとわたしたちが一緒になるようにしてたのね。あなたとわたしの間に何かが起こるかもしれないと思って」
ガリオンはその可能性を考えてみた。「たぶん、きみの言うとおりだと思う」ようやくかれは口を開いた。「おばさんは人と人の仲をとりもつのが好きらしいから」
セ?ネドラはため息をついた。「そうとわかっていれば、あんなに時間をむだにはしなかったのに」彼女の口調にはかすかな後悔さえ感じられた。
「何をいうんだ、セ?ネドラ!」彼女の言葉にショックを受けたガリオンは、あえぐような声を出した。
彼女はいたずらっぽく笑った。そして再びた乳鐵蛋白め息をついた。「もうこれからは、何でもかんでもしかつめらしくなっちゃうのね――きっと前ほどおもしろくはないでしょうね」
ガリオンの顔は今にも火を吹かんばかりだった。
「まあ、それはおくとして」彼女は続けた。「二人で水浴びしたときに、わたしにキスしたいってあなたに聞いたこと覚えてる?」
ガリオンはもはやしゃべることもできず、黙ってうなずくばかりだった。
「まだあのときのキスをわたしはもらってないわ」彼女は茶目っ拔罐気たっぷりに言うと、立ち上がって、つかつかとかれに近づいてきた。「あのときのキスを今いただきたいわ」彼女は小さな手でガリオンの胴着をしっかり握った。「リヴァのベルガリオン、あなたはわたしにキスする義務があるわ。トルネドラ人はもらうべきものは必ずもらうのよ」まつげの下からかれを見上げる瞳にはあやしい炎がくすぶっていた。
そのとき、外でファンファーレが鳴り響いた。
「もう行かなくちゃだめだ」ガリオンは必死のおももちで異議を唱えた。
「待たせておけばいいじゃない」そうささやきながら、王女はガリオンの首に両腕を巻きつけた。
ガリオンはごく短い、儀礼的だけのキスですますつもりだったが、セ?ネドラはあきらかにそんなつもりはないようだった。彼女のきゃしゃな腕は驚くほど力強く、その指はしっかりとガリオンの髪の毛をはさんでいた。キスは驚くほど長く、ガリオンのひざはがたがたと震えだした。
「やっとキスしてくれたわね」セ?ネドラはようやくかれを離しながらささやいた。
「もう行った方がいいと思うよ」再びトランペットが鳴り響くのを聞きながら、ガリオンがうながした。
「すぐに行くわよ。わたしの服装、おかしくなってないかしら」そう言いながら彼女はガリオンに見えるように一回転してみせた。
「いいや」かれは答えた。「何ともなっていないよ」
すると王女は不満そうに頭を振りながら言った。「今度はもう少しうまくやってちょうだいね。さもないとわたし、あなたが真剣に愛してないんじゃないかと思うようになるわ」
「ぼくにはきみという人がまったくわからないよ、セ?ネドラ」
「ええ、わかってるわ」彼女は謎めいたほほ笑みを浮かべて言った。そしてかれのほおを優しくたたいた。「でもわたしはこのやり方を変えるつもりはまったくないわ。さあ、もう行きましょうよ。あんまりお客さまをお待たせするわけにはいかないわ」
「ぼくは最初からそう言ってるじゃないか」
「さっきはそれどころじゃなかったでしょ」彼女は王者らしい無頓着さで言った。「ちょっと待って、ガリオン」王女はやさしくかれの髪をなでつけた。「これでいいわ。さあ、あなたの腕を貸してちょうだい」
ガリオンが腕をさし出すと、王女はきゃしゃな手をそえた。トランペットが三回目の吹奏を繰り返すなか、かれは広間のドアを開けた。二人が広間に入場したとたん、いあわせた列席者たちのなかからいっせいに興奮のどよめきが起こった。セ?ネドラに歩調をあわせながら、ガリオンは威厳のある足取りで、王者にふさわしい落着きはらった表情を浮かべながら歩いていった。
「そんなふうにむっつりしてるものじゃないわ」彼女が小声で忠告した。「少し笑みを浮きどきうなずいてみせるの。そうやるものなのよ」
「きみがそういうのなら」かれも小声で答えた。「実のことをいえば、ぼくはこういったことにまったく慣れてはいないんだ」
「大丈夫よ」彼女は安心させるように言った。
列席者に向かってほほ笑み、あるいはうなずきながら若い婚約者たちは大広間を進み、王女のために玉座のそばに用意された席の前へ来た。ガリオンは彼女のために椅子を引いてやってから、自分は玉座の階段を登りはじめた。いつものように〈アルダーの珠〉はかれが着席すると同時に青い光を放ちはじめた。だが今回はどういうわけかほのかにピンク色をおびていた。
婚約の儀式は雷鳴のように轟きわたるベラーの高僧の祈りの言葉で始まった。グロデグは状況をいかして最大限に劇的な効果を高めていた。
「まったくうんざりするようなおしゃべり男じゃないかね」ベルガラスは玉座の右側のおなじみの場所からぶつぶつ文句を言った。
「セ?ネドラとあそこでいったい何をしていたの」ポルおばさんがガリオンにたずねた。
「何でもないよ」ガリオンはまっ赤になりながら答えた。
「本当かしら。じゃあ何であんなに時間がかかったんでしょうね。不思議だこと」
グロデグは婚約合意書の最初の条項を読み上げはじめた。ガリオンにはまったくわけのわからないたわごととしか聞こえなかった。途切れめごとにグロデグは読み上げるのをやめ、ガリオンを厳めしい目で見た。「リヴァ国王ベルガリオン陛下は、この条項に同意するや否や?」高僧はそのたびにいちいちガリオンにたずねた。
「同意する」ガリオンは答えた。
「トルネドラ国王女セ?ネドラ殿は、この条項に同意するや否や?」グロデグは今度は王女にたずねた。
「同意します」セ?ネドラははっきりした声で言った。

カテゴリー: 未分類 | 投稿者awkwardgut 16:26 | コメントをどうぞ