金曜日
何時もならチャリのところ、体調をかんがみてバスで街まで、それもちがった景色を見てみようと東バイパス経由のバスに乗ってみたら1時間くらい十分についやしていた。用事を済ませて長塀の近くを散策するとここでも観光客は中国、韓国人とおぼしきひとたち。これも円安効果なのだろうか。何となくさびしくなった。
戻るとあーちゃん、不在味噌ラーメンを作ってかっ込みコートへ出かける。女子の大会があつているとかで人影はまばら、2コートで仲間がたむろしていたのでしばらく雑談、そこには肩を痛めたKさんも、手術はしないから意外と早く復帰できるかもしれない。かもが復帰してくれないとぼくの自信は喪失して行くばかり。
A氏と練習を軽く始めるとG氏からケイタイ、コートにいるから、どうどとケイタイを切る。前回は負けていた、今の体調を計るにはナイスタイミングだった。3本のラケットを取り替えながら感触をつかみながらのワンセット、もう一つと懇願していたが、断った。1セットが精一杯に思えた。体力を消耗するだけなのだ。
それから男子ダブルスを一つ、タイブレークまで楽しんでから帰途についた。
◆奈良くるみ 2015.03.27 マイアミは2回戦も勝ちましたー!!
◆WTA(女子ツアー) 2015.03.27 「12歳の頃から倒すのが夢だった」とガブリロワがシャラポワを倒して3回戦に進出 [マイアミ・オープン]
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空中のサーカス団 〜冷笑する道化師〜私のネタ帳の一部
俺はいつものように地上へと遊びに降りていた。地上の星はとても綺麗で好きだったからだ。
宣伝と勧誘を兼ねているが、本命は夏の星。
俺たちの星は移動しないので年中同じく場所から動かない。
つまらないのだ。
ふわふわと、空気を踏み台にしながら下っていると小さな人影が見えた。
地上の時間ではもう人間の活動時間は過ぎているだろうに、何をしているのだろう。
近づいてみると、幼い子供のようだった。
泣いている、のか?
「レディースエーンドジェントルメーン!」
俺が遠くからそう呼び掛けると、ビクッと体を震わせ俺を見た。
恐ろしく無表情な子供だった。
「そこのおチビさん、ひとりなの?」
空気に座って、子供に俺は聞いた。
「おにぃちゃん、誰?」
無表情な子供は俺に聞き返した。
「お…、私かい?私は道化師フリーズ!空中の大サーカス『エア』の支配人さっ!」
子供は少し不思議そうに首を傾げるだけで、何も言わなかった。
大人びているのか、それとも心が死んでしまったのか。無表情で無感情な目、この目はいままで何を見てきたのか、俺には分かる余地はない。
「おにぃちゃんは、ひとり?」
「ん?」
口を開いた子供は、もう一度反復して言った。
「ひとり?」
さっと俺の中の何かが覚める音がした。
「何が、いいたいんだい?」
なので、俺は聞き返した。何か、昔にもこんな事があった気がしてならなかった。
「僕が、独りぼっちだから」
その瞬間、子供に変化があった。
無気力だった目が悲しみと恐れに変わり、救いを求める視線へと変化した。
「…俺が、1人かって?」
手を伸ばそうとする子供に、俺は手を差し伸べることにした。
俺の子供の頃と重なった。
俺は子供の頭を乱雑に撫でた。
「大切な仲間が、いるんだ」
俺は、仲間がいる。あの空に、あの雲の上に。
前には到底望めなかった、信頼できる仲間達だ。
その機会をくれたのは2代目エア支配人『フリー』、男とは思えない真っ白な髪と真っ白な肌。それに合わせた美しい笑顔。
太陽のような人だった。
俺は子供に沢山の人形を与えた。人形師としての道を歩むように。
名は『ロンリー』のロン。孤独な人形師。
でも、そんな孤独もこいつは乗り切るだろう。
俺の自慢の仲間達がいるのだから。
それは13年前、俺の前にフリーは現れた。
「おい、チビ。元気ないなー?」
裏山に小さなツリーハウスを作っていた俺は、毎日夜になると家を抜け出してそこに行っていた。
木の上から見る星は遮るものがなく、どこまでも見据えることができるのだ。
特に夏の星は大好きで、空が曇っていようが双眼鏡を持ち出していた。
母は看護師で殆ど家にはいない、きちんと会ったことは数えるほどしかない。
父は事故で死んだ。目の前で。
えぐいものだった。大型トラックに弾き飛ばされてした死体は人間の形をなしていなかった。
残ったのは幼い妹と俺。妹の面倒も家事も全部俺の仕事だ。
星を眺め始めたのはその頃からだ、最初は死んだ父に会えたらいいなとか、そんなファンタジーなことを考えてのことだった。
でもあの頃は優しかった父が死んでしまったことを受け入れられなかった。
フリーが現れたのは父が死んで、3年ほど経ってから。8歳のときだ。
「いい趣味してんねー」
ツリーハウスの屋根に寝転んで星を見ていた俺の後ろにフリーは立っていた。
「あ、びっくりしたー?」
ニコニコ笑うフリーは俺の横に座った。へんてこな帽子を被っていた。
「誰だ、あんた」
「え、あ、僕?」
フリーは星に見入っていたようで、ワタワタしながら俺に応じた。
「僕はね、空中でサーカス団をしている道化師フリー。一応支配人をまかされてまーす」
また男はにこっと笑った。
「フリー?」
「そう、フリー」
と、フリーは足をパタパタさせながら答えた。星が気に入ったようだった。
「いやー、地上の星はこんなに綺麗なんだねえ。うちのとこなんかやる気ない星たちしかいないからさー」
フリーはしみじみと言った。
「でも、近くに星があるのはいいことだと思います」
俺は慣れない敬語で応えた。率直な本音だった。
「そうだね、そうかもしれないね」
フリーは立ち上がった。
「じゃあ僕達の星を見に来るかい?」
「え?」
見上げた俺は夏の星空をバックに太陽を見た。
俺は雲の上に行ったことがある。
別にそう不思議なことはなく飛行機で、だ。
雲といっても水分の塊で、歩けないし触れない。
が、俺は今雲の上に立っている。
「あー、勝手に出てきちゃったから怒られるかもなー…」
フリーは少し困ったように言った。
勝手に出てきたのなら怒られて当然だと思う。
「フリーぃぃぃ!」
遠くからフリーを呼ぶ声がした。
走ってこちらに向かってくるのは赤毛の女の人。
「げ、ファースト…」
「忙しい時にどこいってんの!」
パコんっとファーストと呼ばれた人はフリーの頭を叩いた。
「いて…っ」
「支配人としての自覚あんのー?この自由人馬鹿」
「いやいや、慣れなくてねぇ」
フリーは叩かれた頭を摩りながら、ペコペコと謝った。
「…誰」
「え、ああ。ファーストっていってね、初代支配人だよ。偉い人」
「ふーん」
と、俺はファーストを見上げた。
まだ若いお姉さんって感じだった。少し焦がした肌と赤毛、モデル顔負けなスタイル。
美人だな。
「ん?何この子」
「えー?連れてきちゃった」
「ふーん…」
ファーストは俺を遠慮なく眺めた。
「いーんじゃない?あんたが面倒見なさいよ」
「僕でいいの?後継者欲しいって言ってたじゃん」
「そんぐらい自分で見つけるわよ。早く地上に戻りたいしね」
それだけいうと、ファーストはひらひらと手を振り、どこかへ行ってしまった。
「じゃ、僕の部屋行こうか。名前決めてあげる」
「…名前?そんなのもう…」
…あれ、名前、なんだっけ。
「何にしようかなー」
陽気に鼻歌なんかも歌いながら歩き出すフリーを追いかけながら、俺は自分の名前を思い出せないでいた。
「フリーズ!仕事!」
「あ、はいっ」
俺の名前はフリーズとなり、フリーの補佐として働いていた。
フリーは道化師でいわばサーカスの要。最初にどれだけ盛り上げられるかが全てフリーに掛かっている。
どおりでテンションが高いわけだ。
納得のいく話だった。
そういえば、あの初代支配人・ファーストは狙撃手らしい。とても目がいいとかで、1キロ先まで見えるとか。
「フリーズ、今日はフリーズが舞台に出る?」
「え?」
片付けをしていた俺にフリーは言った。
「いや、俺なんて…」
「経験は大事だって、やってみようよ」
「ハァ…」
唐突に決まってしまった初舞台。フリーに髪型やメイク、服なども全てやってもらい開演時間がきた。
「さあ、フリーズ出番」
フリーに背中を押され、カーテンの影から転ぶように出た。
「あ…ぁ」
そこは別世界だった。
沢山の顔、手、音。
一気にセリフがぶっ飛んで立ち尽くした。
沈黙。
全身から汗が吹き出す。服の裾を握り締め、したを向いた。
恥ずかしい、帰りたい。
皆の舞台を台無しにしてしまった…。
「さあ、皆さん本日は空中大サーカス団エアに足を運んで頂きありがとうございまーす!」
ざわっと、観客が座喚く。
後ろにはフリーが立っていた。
フリーは俺の肩に手を置いて耳元で言った。
『これを付けてて』
フリーがかぽっと俺の頭に被せてきたのは、真っ白な仮面だった。
俺は咄嗟にその仮面で顔を隠した。
「皆さんびっくりしましたかー?あのフリーが小さくなったと思ったでしょー?」
フリーはどこから出したのか、細いバトンを取り出しくるくると回してみせた。
「なんと新人のフリーズといってねー、可愛い可愛い新人道化師ですー。皆さんどうか御贔屓宜しくお願いしますー!」
ついでに宣伝までして、その日の仕事はフリーによって終了した。
「よかったねー、常連さんに顔覚えられたよ」
夜中、明日の準備をしている俺にフリーは言った。
「拗ねてんの?」
と、俺はフリーが伸ばした手を弾き返した。
「拗ねてんじゃん」
「拗ねてない」
「拗ねてる」
「拗ねてないって!」
ぶんっと、大きく振った手がフリーの顔に当たった。当たるなんてもんじゃなくて、思いっきり。
「あ、ごめんっ…」
向けていた背を翻して正面からフリーを見ると、フリーの頬から血が滴っていた。
「いってて…、まったく力がつよいねーえ」
打撲じゃ血は出ない。爪が掠ったのだろう。
「っ…」
俺は走り出した。
走ってテントを抜け出した。
罪悪感に押しつぶされそうだった。
後ろからフリーの声がしたが、振り向かなかった。
地上に帰ろう。
最近地上への戻り方を教えてもらったばかりだった。
この雲の地面には穴があって、そこから地上に戻れるそうだ。
戻ると降りるは違う。
降りるは、フリーのように遊びに来るような感じ。戻るは、地上に残してきた肉体にもどる。
そう、戻ろう。
雲の端まできた。
あと一歩進めば戻れる。
俺は若干の喜びを覚えていた。普通の生活に戻れる喜びだ。
俺は踏み出した。
するとすぐに目を開けることができて、視界には大量の木目が見えた。
天井のようだ。
「お、お兄ちゃん!」
「…え」
ふと、女の子の顔が視界を占領した。
「お兄ちゃんが起きた!」
お兄ちゃん…?嗚呼、妹の「明」か。
でも、少し大きくなりすぎじゃないか…?
「よ、よかったっ、もう起きないかと思ったよ!5年も寝てたんだから」
「5年!?」
俺は寝かされていたベッドから飛び起きた。
でも、筋肉が機能せず、すぐに倒れてしまう。
しかし何故だ。3ヶ月くらいしかいなかったはずなのに5年も経ってしまっている。
(そうだよ)
と、頭に声が響く。頭に直接話しかけられているような感覚だ。
(エアと地上じゃ、ちょっと時間の流れが違う。今回はたまたま5年しか経っていなかった。もしかしたら10年かもしれないし2秒もたっていないかもしれない)
それはフリーの声だった。
いつもとは違う真面目な口調に俺は少し身構えた。
(帰ってこいよ)
いやだ、あんなところ。
(帰ってこないのか)
当たり前だ。
すると、世界が一回転して場所が変わった。
冷たい風が髪を撫でる。
ここは俺とフリーが初めて会ったツリーハウスだ。
振り返るとそこにはフリーが立っていた。顔には大きなガーゼが貼ってあった。
俺はそれを見て、顔を背けた。見たくなかった。
「このガーゼは大袈裟だよ、メスがやり過ぎたんだ」
それでも、あの綺麗な顔に傷をつけたことには変わりない。
「僕の顔なんてどうでもいいんだよ」
俺は知ってしまった。フリーが自分をどれだけ嫌っているか。
今まで少し自分に対して槍投げなところはあった、だがここまで自分を軽蔑するような言葉は言わなかった。
「僕は道化師だ。自分の感情を押し殺すのが仕事だよ。でも、だから僕には人の感情が読み取れる。フリーズ、君は寂しかったんだよな。誰かに自分を理解して欲しくて、でも誰も気づいてくれなくて」
フリーは大きく息をついて、また続けた。
「だけどね、フリーズ。それじゃ誰も気付いてくれないよ。理解しようとすると君から離れていくんだ。僕は君を君が思ってるより信用しているんだよ。他の皆もそうだ、失敗することぐらい皆したことあるよ。ほら、毒使いのポイズンなんて自分の毒で死にかけたこともあるんだぜ?」
それでいいんじゃないの、と、フリーは笑って言った。珍しく心からの笑顔だった。
すると、フリーは思いっきり俺の頭を撫でた。乱暴に、乱雑に。
「帰るよ」
その言葉が、思っていたより重く感じた。帰る。俺にはまだ帰る場所がある。その事実がたいへん嬉しかった。
溢れてくる目からの塩水を拭おうともせず、垂れ流したまま雲の上へと
“帰還した”
フリーはファーストの引退と共に地上に戻った。残してきた大事なものがあるのだそうだ。
俺はフリーから支配人の帽子と仮面を引き継ぎ、ここにいる。
皆、特に大先輩のポイズンなんかに迷惑かけたりしたが、どうにか支配人としての役職を自分なりに全うしている。
フリーがエアを去ったあと、罪悪感と自己嫌悪に押しつぶされ、自分の顔を切ったりした。医者の”メス”に綺麗に縫製され、若干跡が残る程度だった。
今は若い子も増えた。
人形師はもちろん、ナイフ使いなんて。
とても私に似た人形師は、不器用ながらも一生懸命でレギュラーも遠くないだろう。同じ部屋のナイフ使いが上手くやってくれているようだし、それよりポイズンが目をかけている。幸せなやつだ。
それから3年ほど経ったある日、俺は朝礼を終えて練習場を見回っていた。
その時だ、人形師の放った人形によって加工されたナイフが暴走しているのが目に入った。
ぐるんぐるんと宙を舞い、動きが明らかにおかしい。人形師は目をつぶり気づいていないようだ。
と、全てのナイフが人形師の方へと方向を変えた瞬間、俺の足は人形師に向かって2歩も3歩も踏み出していた。
気づくと俺は、真っ白なベッドに寝かされていた。
何があったんだっけ…。
「あっ、やっと起きたねっ。フリーズ、元気かい?」
なんとなくデジャブだ。
「メス…、何があったんだっけ」
「ええっ!覚えていないの?そんな大怪我負ったのに」
見ると着替えさせられた寝間着からちらちらと包帯が伺えた。
「え、なにこれ…ぃててっ」
「そんな動いちゃだめだよー、傷口が開くよ?」
どうやら、肩、脇腹、太もも、足首に傷があるようだ…。
「当分道化師の仕事はお休みだね。今道化師フリーズしかいないけど、誰かに代わってもらわなきゃね」
「…あ、ああ」
痛む脇腹を撫でながら、俺は目をつぶった。
気づくと、寝てしまっていたようだ。
体を起こすとベッドの周りに人形師の人形達が集まっていた。
「どうした?ご主人のところにいなくていいのか?」
しゅんとしたを向いている人形達の頭を撫でた。
「ろんがしんぱいしてる。フリーズがけがしたからしんぱいしてる」
シルバーが言った。
「あやまらせてあげてね」
「…うん」
前にもあったな、こんなこと。
昔のことを思い出しているうちにまた俺は眠りについた。
ガチャっという扉の開く音で目を覚ました。人形達が揺れていることが伝わってくる。
「フリーズ」
「…ロン」
人形師が扉の前でたっていた。
「ロン、大丈夫?」
人形師はすっと目を細めた。少し怒っているようにも見えた。
「フリーズ…ごめんなさい…」
人形師は少し目を伏せるように言った。
「いいよ、俺なんて」
ああ、前にもこんなことを言った人が居たな。自分の事が大嫌いな人が。
「ロン、おいで」
と、俺はベッドをポンポンと叩いた。
人形師は緊張したように、遠慮ガチに座った。
そんな人形師の頭を俺は思いっきり撫でた。
「ぅ…」
そんな小さな声をあげながら、目で抗議してくる人形師。その人形師は小柄で、会った時よりは伸びた身長だがそれでもまだ低いほうだ。
「ぁはは、ロンはちっちゃいなぁ」
「…」
「初めてあった時と変わってない」
と、俺は徐ろに人形師を抱きしめた。
人形師は俺の分身のように似ている。だから憎たらしくて、可愛い。
「フリーズ…?」
「ロン。ロンに俺の仮面あげる」
「え?大事な商売道具でしょう?」
人形師が俺の腕の中でモゾモゾと動いた。
「んー…、そうなんだけど、もういいや」
「それ、どういうこと?」
ああ、きっとこの人形師を見るのも最後になるだろう。この可愛い弟のような人形師を撫でるのも最後になるだろう。
じゃあね、”ロンリー”。
人形師が帰ったあと、人形達に作ってもらった小さなメモに詳細を書き、荷物をまとめた。
ここに来るのもあの日以来だ。
自分が嫌になって地上に戻ったとき、ここから降りた。
振り返ると、沢山のテントの灯りがゆらゆらと揺れていた。
「いってきます」
そういって、サーカス団エアを後にした。
がたっと、体が落下する感覚と共に目が覚めた。目に映ってきたのは一面真っ白な世界。
ああ、違う。ここは病室だ。真っ白なベッドと壁、床と天井。
帰ってきたんだな、地上に。
もう会えないんだな、仲間たちに。
ふと泣きそうになり俺は思いっきり体を起こした。
すると、小さなお婆さんが俺のベッドのふちでパイプ椅子に座り寝ていた。
「ん…」
誰だろう、と思っているうちにお婆さんは目を覚ました。
お婆さんは俺を見て大きく目を開くと、そのまま大粒の涙をこぼした。
「お兄ちゃんっ…」
「明、ただいま…」
俺はそのお婆さん、いや、妹を抱きしめた。
「おかえり、おかえり、お兄ちゃん」
「うん、ただいま」
すっかり歳をとってしまった妹を抱きしめながら背中を撫でた。
そのとき、やっと自分の名前を思い出した。
サーカス団ではない、地上の名前。
“影陰 銀次”
意味は、次の星の光。
俺は新しい星を見届けられただろうか。
冷笑する道化師と幻のサーカス団の小さな世界。
頭上で起きるちょっとした出来事。
空中と地上の物語。