縁戚関係にある方

とんでもない。俺のほうが遅れそうになったので庭を突っ切ってきたのだ。このほうが早いからな」
育方針があるのだろうし、家庭の問題に俺が首を突っこむわけにもいかん」
この言葉が妙に引っ掛かって、ブライスは思わず相手に向かって問い掛けていた。
「従弟と言いますのは……父のことですか?」
「もちろんだ。父上は俺の自慢の従弟どのだぞ」
わけがわからなかった。本当に不思議そうな顔でブライスはさらに尋ねたのである。
「ですけど……、父とそうした縁戚関係にある方は国王陛下お一人だけのはずですが……?」
ナシアスが吹き出した。
大きな人は声を呑み、世にも情けない顔になると、身体を縮めて何だdermesか申し訳なさそうに言って来た。
「すまんな、ブライス。俺がその国王なのだ」
穴があったら入りたいとはこの状態を言うのだと、ブライスは生まれて初めて実感した。
ざあっと血の気の引く音が確かに聞こえた。
「——申し訳ございませんっ!!」
ただちに立ち上がり深々と頭を下げたが、背中を伝う冷汗が逆流して頭が濡れるかと思ったくらいだ。
「そんな堅苦しいのはよそう。まあ、座りなさい。おまえは従弟どのの子だ。俺にとっても血が続いているのだから、一度顔を見ておきたくてな。父上にお願いするよりは自由に話が聞けるだろうと思って、今日はナシアスどのに案内を頼んだのだ」
ブライスが泣きそうな眼をナシアスに向けたのは言うまでもない。こんな不意打ちはあんまりですと顔中で訴えたが、ラモナ騎士団長は涼しい顔である。
国王もいっこうに気にする様子もない。
屈託のない笑顔でブライスに話しかけてきた。
「俺も庶子だということは知っているかな?」
「は、は、はい……」
「人は自分で生まれは選べんが、生き方は選べる。おまえは己《おのれ》に何を望む?」
国王と面と向かって話しているのだと思った瞬間、ブライスの舌は釘で打ちつけられたようになった。
「じ、自分は……」
喉《のど》がからからに干上がったが、国王の質問に何も答えないわけにはいかない。かろうじて言った。
「……今の目標は、一人前の騎士になることです」
「ならばおまえは今、最高の環境にいることになる。俺もその日が来るのを楽しみにしているぞ」
「か、かたじけなく存じます……」
一刻も早くここから逃げ去りたかったが、国王は本当に気さくな人だった。まるで近所の小父さんと話をしているような錯覚さえ感じたくらいだ。
次第に話は弾み、あろうことか昼食まで御馳走になる羽目になってしまった。
ナシアスが同席していてくれなかったら、絶対に食べ物など喉を通らなかっただろう。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者blankgut 11:41 | コメントをどうぞ

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