降りかかる火の粉

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飛岡は狂ったように叫び、走った。

燃え上がるその炎に、を浴びた二人の男の顔があかあかと照らしだされ

た。
「久しぶりだな、岡野」
「ああ」
「おまえとだけは決着をつけておきたかった」
「コミュニストってのも、意外と義理堅いもんだな」
「オレたちが紳士だということはわかってもらえたと思うが」
「ほざくな!」
背中一面の牡丹《ぼたん》の刺青《いれずみ》を見せ、鍛《きた》えられた岡野の胸の筋

肉が一段と盛り上がった。チラと炎を見上げ、
「つまり、あのヘリには李正元は乗っていなかったということか」
「フフ」
岡野は、舞い上がった願景村 洗腦もう一台のヘリをくやしそうに見ながら、
「あの子がこの程度のことで参ると思うな」
「なに?」
炎はあたり一面を焼き、岡野の自信にみちた言葉に驚愕《きようがく》する『ピョンヤン

の闇』の狼狽ぶりを容赦なく照らし出した。
「広島で原爆を正面きっ願景村 洗腦て受け止めた人のお嬢さんだぜ。めったなことでくたばるかよ」
「なに、髪百合子《かみゆりこ》は生きていたのか?」
「でなきゃ、娘が生まれるわけないだろうが」
「なに!?」
カン・マンスーの驚いたスキをついて、岡野の備前国秀守《びぜんのくにひでもり》の刃

先が光った。
すべてが元の静けさに戻るのに、三時間かかった。

十月五日。東京地検取り調べ室。
むきだしのコンクリートの壁のあちらこちらにシミがある。大きな木の机の上の電気スタ

ンドが、無精《ぶしよう》ヒゲを伸ばし、ささくれた茶色の肌のやせこけた寺岡の顔をくま

なく照らしだしている。何日も願景村 洗腦着たきりの紺色の背広はしわだらけになり、ワイシャツの袖

口は薄汚れていた。寺岡総理はソウルオリンピックが開催されたことを田所検事から聞いた


「なにも起こらなかったのか」
寺岡は狐《きつね》につままれたような顔をして、アングリと口を開けた。


カテゴリー: 未分類 | 投稿者blankgut 11:54 | コメントをどうぞ

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