テニスマガジンでしたっけ、R・ショーンボーン博士の執筆が掲載されていることがあります。
現代テニスは、まだ進化をし続けていて、それはいまプレーの速度が上がってきていることにまだ歯止め?が効かないという事を書いています。
サービスリターンの技術が飛躍的に向上していて、さらにショットのスピードも増してきていると。
ショットのスピードが増すと、精度は落ちますし、回転をかけなければコートに収まらなくなってきます。当然、回転をかければショットのスピードは落ちます。しかしスピードは欲しい。なのでパワーを増してきているという事があげられると思います。
今の時代よりも前、フェデラーがジョコビッチやナダルよりも5歳上、という事を「ひと世代上」と考えるならばそのさらに上の世代である、サンプラスの王権時代には、サーブ&ボレーヤーが、数を少なくしてきたものの、生き残っていました。その時代のもうちょっと前の時代には、ウインブルドンはネットプレーヤーのものだと思われていました。それだけにアガシやヒューイットの優勝は衝撃的でした。
思い起こせば、時代が動き始めたのは、そのころなんでしょうか。アガシのウインブルドン優勝で初めて聞いたのは、ボリス・ベッカーが言っていた、ウインブルドンを勝ち切るのに必要なのは、必ずしもビッグサーブではない、グッドリターンなんだという言葉。
フェデラーの出現により、スーパーオールラウンダーの完成形みたいなものがコートで華やかな時代を作りました。誰もが憧れる、美しく強いテニス。フェデラーはサーブ&ボレーのスタイルでサンプラス戦を制しています。そのあとに、アガシのような選手から、またヒューイットからも全米のタイトルを、ストローク戦を制してものにしています。
スピードへの対応は進化を続け、フェデラーはロディックにキャリア後半はほとんど負けていないはず。パワーではフェデラーに勝てない。
フェデラーを倒すのに特化した選手がナダルでした。ナダルはいま、何度も故障しては復活を果たしていたキャリアから、今回ばかりは這い上がれずにいます。そうはいってもランキングはかなり上ですが。全盛期のように「出れば勝つ」というわけにはいかなくなってきていますね。
ナダルのまわりでは、彼が対戦相手になることに恐怖を抱いているようには見えないようなゲームが多くなりました。打っても逆襲される。ナダルを相手に「粘り強いテニス」なんて披露しようもない。そういう空気が彼のいるコートからあまり感じられなくなってきた気がします。
ジョコビッチとマレーの、コートカバリングに秀でた特徴を、攻撃へのシフトチェンジが上手くできることでコート上でどこにも隙が無く見せられることが今のテニス界で最も強いスタイルになってきています。
この秋の上海で、ジョコビッチがバウティスタ=アグに負けたのは、そういう意味ではかなりの衝撃でした。同じようなスタイルの二人で、ポイントをとる姿をイメージできるのはジョコビッチ。ポイントを守るようなテニスをすると思っていたバウティスタ=アグがマスターズ1000大会の準決勝で勝ったのです。
守備的スタイルのような(レベルが高すぎてワタシにはそうまでみえませんが)ナダル・ジョコビッチ・マレーに対して、フェデラーは攻撃(先手を取る)的スタイルのテニスでその地位をキープしています。今年のウインブルドンはどこまで勝っちゃうんだろうとワクワクしてみていました。準決勝のラオニッチ戦でも、第4セットのチャンスを活かせば勝てていましたからね。
錦織もフェデラーの後継者のようなスタイルですね。非常に理知的で、相手を追い込むのが上手く、プレースメント的にもメンタル的にも相手の上に立とうとするテニス。彼が日本人でなくとも、ワタシは大ファンになったと思います。
この先の時代のテニスは、どう進化していくんでしょうか。
直接錦織よりも若くて台頭してきている世代もいます。キリオス・ズべレフ・ティエムなど。彼らの個のテニスはそれぞれに魅力的で、どんどん大きな舞台でその才能を見せてほしいと思いますが。、プレースタイルとしてみれば、新しさを感じる要素が少なく感じます。ナダルの右利き片手バック版がティエムだし、キリオスはそのテニスの魅力は独特なもので、才能は誰よりも豊かにあると思ってみていますが、天才ゆえのムラッ気が。。。ズべレフも強打を使った全体にバランスの良さがあり、しかしどこかに特化した魅力が薄いような気がします。ズべレフのお兄ちゃんのミーシャのほうが、ネットプレーを織り交ぜた厚みのあるテニスで面白いですけどね。
話を大きく戻しますが、一ポイントにかかるラリーの平均時間と、ショットの相手への到達時間の両方が、この5年間で短縮されているというデータが、テニスマガジンのショーンボーン博士の記述にありました。
これはショットのスピードよりもポジションの要素が変わったというようなことでした。5年前にもビッグ4はいましたし、錦織ももう活躍していました。プレーヤーに大きな変動がないという事は、そういう事なんでしょうってことなんでしょうか。錦織は明らかにポジションを上げるスタイルを実践してきていて、今年になってからは臨機応変にその位置を相手に見せることでかかるプレッシャーまでも計算しているかのようなプレー。頭いい!
これから必要な要素としては、ショットの精度の事を書いていましたが、スピードを上げてきて、その精度を上げさせないようにすることが試合であるわけですから、今よりももっとバラツキのないショットの落下点を実現させることは現実味があるようには、今の私には思えません。
とはいえ、20年前にフェデラーのようなテニスをする人が現れることが想像できなかったように、次の時代のチャンピオンにはその精度が備わった人がなるのかもしれません。
攻撃型オールラウンドが、フェデラーの型。彼は積極的にネットを取りに行く嗅覚のような、感覚的なものを持っています。そしてすべてのショットのバランスやレベルが非常に高い。だからこそ年長者でありながらいまだに輝き続けています。
ナダルはフェデラーよりも5つ年下で、もう30歳になろうとしています。度重なる故障もありましたが、彼の純粋なモチベーションや圧倒的なフィジカルでカムバックを可能にしていましたが、正直言って今後はむつかしいのではないかとみています。彼のキャラクターは尊敬できますし、コメントは常に読みたいと思っていますが、再びチャンピオンになる可能性はあまり高くないのではと考えています。
ジョコビッチは今年のフレンチ以降に、あの神がかった強さがやや薄れています。それがどういう原因なのか、ワタシにはよくわからないのですが、パフォーマンスを取り戻すことは出来ると思っています。来週のランキングで2位になりますが、それが発奮材になるのかどうか。
マレーは現在充実していて、見ていて楽しい選手でもあります。勝つのにあんなに苦労するチャンピオンもいていいと思います。少しでも長くその座に「かじりつく」ようにしてこそマレーなのではないかと思いますし、準優勝の多かったこれまでのグランドスラムキャリアに、もっと優勝杯を増やしていってほしいと思います。
錦織にはものすごく期待してしまうのは、やはり日本人だからだと思いますが、彼のテニスは世界中の誰よりも魅力的だと思います。後何が足りないのか、もう十分に才能や勝負強さなどは見せてもらいましたが、マレーのGS初優勝も長くかかったことですし、いづれ必ず、と思っているうちに年取って引退しちまわないように常にファイトする姿を楽しんでみていきたいと思います。
向かっていくポイントにめっぽう強く、試合をあきらめるようなことがなくなってきた錦織は、まだ勝負のシーソーがどちらに傾くか見えないときに無理するところ以外に弱点なんかないように思いますが、その試合中の「流れ」を相手に傾かせちゃったときに錦織ができることが何なのかがわかんないような気がしています。(ワタシがわかんないだけなので、チーム錦織は常にいろいろなことを考えて実践していると思います)
男子テニス界では、バックハンドスライスの活用が目立ち始める一方、ネットプレーの頻度が増えてくるのではないかと思います。長いラリーをあきらめずにファイトし続けるタフなゲームは観客としては非常にスリリングで楽しいですが、プレーヤーとしてはそんなに歓迎できる状況ではないでしょう。優勢にラリーを勧めてネットプレーでピリオドをうつ、という戦術をどう巧みに使ってくるか、そこにトライしてくる選手にも注目したいと思います。
ネットプレーはリスクを多く含んでいる、という今の時代のテニスの風潮がありますから、ネットプレーをうまく使える選手が、重大なポイントにおいてはたして速攻を貫くのか、あるいは良いサーブからじっくり相手を押し込むショットを持つことが大事になるのか、戦い方の特徴のある選手が出てくることが楽しみです。