クローズド・スキル(行動に対する次の情報がない状態=テニスのラリーと同じ・次はどんなショットが来るかわからずに構える)に対応することの、基本的な部分のドリルです。
そもそも、相手がショットを打つときに、何がわからないってどこに向かって打ってきてくれるのかわかりません。
プロならばそれでもフォームができている方を予測したら、相手も思った通りに打つんでしょうが、一般だと打っている本人すら自分の思った方向と違う方に売っていることだってある。
だけどラリーはできますね。見てから動いて間に合う部分が多いからです。
初心者よりも、上級者の方がテンポの速いラリーに対応ができるのは、次になりがあるかを、ある程度絞り込めるからで、逆を言えば初心者はそれができないのでゆっくりしたラリーで慣らしていく必要があるってこと。
そしてボレーが先にうまくならないのは、ラリーのテンポが上がるので、急にはついていけない時間の使い方になるから。
どっちに来るか予測がつかない、って言っても、上級者だって未来が予測できるほど超能力を身につけているわけじゃない。
次に何が起こるかを見ていられるゆとりがあるっていうことと、動作をシンプルにして、再現させる意思がちゃんとしている、というのが対応のよくなる秘訣みたいなものです。
ボールが飛んでやってくる、っていうことが慣れた風景じゃない初心者は、いちいちボールを見ていないとどこでラケットを振り始めればいいのか、どの形でラケットを出したらいいのか、頭の中で処理しなければならない項目がたくさんあって、ゆっくりしたボールでもすごく複雑な判断を高速処理しているようなものです。
上級者は、動きの約束ができていたり、見たボールから短絡的に次の動作のスイッチを入れれば自然と形になる=つまり、よく訓練されているからこそできる判断と反応がほぼ同時にできるので、処理する項目をいくつも飛ばしてあっという間に対応できるようにしているからできるんです。
それの、疑似体験をしてもらう、ボレーのドリルです。テニススクールのローテションドリルの一つとしてやっているので、一人当たり約2分ほどで対応が自然になります。
①半面の振り回し
一定のテンポで、コート半面をダブルスのサイドラインからセンターラインまでをフォア・バック交互に振り回します。テンポはボレーボレーのリズムで。
そうすると、最初はほとんどの人が全てのボールに走って追いつこうとしますが、一球とったら、次のボールが遠くて届かないと思います。
大変なんだけど、気付くまでは10球でも20球でも出し続けます。
気づいた人は、疲れてきた頃から楽になる方法を探し始め、そうでない人はコーチの判断で体力が尽きる前に(笑)ちょっとしたコツを教えてあげます。
走るのを途中でやめて手を伸ばせ!
っていうことで、ちょっと走って腕とラケットの長さを活かしてあげれば、結構少し動くだけで届くんです。
バックハンド側は、肩もねじって余計に手が伸びることを教えてあげないとできない人が多いですが。
だいたい、チョンチョンとサイドステップで動いてラケット持っている方の腕を左右交互にいっぱいに伸ばすと、腰と肩をうまく使うことで両方が楽に届くようになります。
同時に、ボールがそんなに速くないことと、自分の方が間に合う時間を持っていることに気づきます。
腕を振らないとボールが飛ばない、みたいな感覚を持っている初級者には、ラケットが届いてちょっと握ればもう面に当たって跳ね返してくれるってことがわかります。
ついでにもうちょっと声をかけてあげると、当たる瞬間に狙いの方向に面の角度を決めるような手首の形をしておけば、安定した当たりの強さと方向や高さの再現性に気づくはずです。
②近いボールで交互に動く
正面に近い位置に、フォア・バック交互に球出しをします。テンポはさっきと同じくらい。バックハンドはお腹の前なら利き腕を横に引くようにするだけで正面のボールの処理ができます(肩の高さから上はできませんが)
フォアは逆に、体につかえて正面のボールの処理ができませんが、軸足を引いて、自分が回転ドアになったようにボールを避けるような動作をすることと、肘を背中側に隠すようにすれば、体の近くの面をうまく作ることができることがわかります。
①で、いっぱいに伸ばしたラケットの、手首の形と握りの強さだけでボールがきれいに返せることがわかると、腕の関節はボールとの距離の調整で伸ばしたり縮めたりしても大丈夫なことがわかります。
この件があるので、①と②の順番は変えられないと思います。①でわかったラケットの扱いかたが②で応用できるってことになります。
ラケットは動かないとボールを跳ね返す力が弱くなりますけど、それは腕を振らないとボールが飛ばないって意味ではない、という初級者が一番理解できないであろう基本の部分です。
届いた時に、ちょっとボールが跳ね返りやすい持ち方をしておいてね、っていうアドバイスになってしまうんですが、それが一番言い方としては簡単。
握った感覚でボールが飛ぶことがわかれば、腕の長さはボールに当てやすくするために使うもので、曲げたり伸ばしたりしてラケット面の真ん中にボールを合わせる方法を体験的に身につけていけばいい。
③ ②の練習中に、突然ランダムに切り替える。
②のフォア側は、体の裏側に腕をかくすように使うって事と、軸足を引いて前から来るボールを回転ドアのように避けて通す、っていうことができるようになる練習です。
これ、ボールの方に突っ込んでいったらできないよ、っていう練習なんですね。
なので、ラケット面が用意できるところにボールが来るようにうまく動く、っていう練習に①から切り替わっているので、飛んでくるボールに向かって行って(プレーヤーの意識では「素早く追いついて」)しまうせいでラケットの時間がなくなる、っていうことに気づかせてあげないと、ランダムが非常に難しくなります。
先に予測、と意識的に近い「予想」をします。
「たぶんフォアだ」とか、
「お願いフォアであって」とか、
「ついフォアに」動いてしまう、動作のクセが出ちゃったりするのは、根拠もなく「急いで動かなければならない」と思い込んでいることと、
ノーバウンドで返球する=ワンバウンドよりも早い(実際に時間は半分ほどしかなくなります)タイミングになるという予備知識から、ボールを見た直後にボールに向かって顔から突進する形になります。
その潜在意識をこちらから強制的に消す(一時的な疑似体験に過ぎませんが)のに①と②の練習が必要になります。
①は「まだ手を伸ばせば間に合う」で、
②は「体の後ろでもラケット面ができる」です。
手首の固め方や、ラケット面の角度をどうするか、というのは連続でボールをどんどん法則的に出して行って、フォアの次はバック、その次はまたフォア、と短い時間の中にどんどん情報を上書きして行って、自分で考える時間を与えないくらいにします。そうすることで、ラケットを持っている手に意識が行くようになる。
これが、上級者のやる、動作に短絡的につなげる、という動作の約束に近くなってきます。
球出しを続けながら、フォアの次はもう一度フォアにしても、急に遠目のバックにしても、見てラケットが間に合うのがわかってきているので、対応が自然になります。
動きはゆっくりになっても、ちゃんと間に合って返球できるようになるので、いろいろなボールがやってきたとしても「これなら返せる」という意識のもとでラケットを扱うようになり、ほとんどの生徒さんがラリーの風景で全てのボールを返せるようになりました。
最初の振り回しがきついので、体力は相当奪いますが、うまく盛り上げて運動しに来たんだからこれが楽しい練習だった、みたいな印象でやってあげられればいいですよね。
コーチとしては要素をきちんと見極めてあげること。①に素早く気づいたのならその段階は早めに終わらせてあげて、③のメニューを長めにやったり、テンポをゆっくりにしてよりロングラリーの感覚にしてあげるのもいいと思います。
①で気づくのが遅い人には、体力的な部分を見てあげて、たくさん走れる人にはそれなりに追い込むまで走らせて、息を上がらせてからアドバイスをあげます。
そうでもない人には、早めにでもいいので「途中で走るのをやめて手を伸ばせばいい」と簡単なアドバイスをします。
これで分かるのは、結構生徒さんっていうのは、手に持っているラケットを使ってこうやってやろうという意識ができていないものなんだなってこと。
空中でラケットとボールがうまく当たるように頭でイメージしておいて、先にやる行動が「ボールを見に行く」ということなんですね。これは下のクラスであるほどほとんどの人がそうやって動きます。
ボールを見たら腕の長さとラケットの長さを物差しにして、だいたい一歩、大きく動けば届くな、っていう判断ができるのは、ラケットがここにこのくらいの長さの道具として存在する、という感覚的なところが優先されないからなのでしょう。
もちろん、その生徒さんたちは全員、右手でラケットを持って左手でフェースの真ん中がどこか、目をつぶって当てられます。手で道具を持つということは、その道具のどの位置がどこにあるか、握ってわかる感覚があるものなんです。
だけど、よく見ないとわからない、という「飛んでくるボール」からプレッシャーがうまく扱えないようにしたり、余計な力みを産んだりするものなのかもしれませんね。