火曜日 どんよりと冬のそら、外は冷たい。
どんよりと低く垂れ込めた冬の空に目やるとぼくの気持ちを象徴しているように思えた。すこし治ってはいるが、整骨院治療ではこころもとなかった。朝方ふと、ハリの盲目の先生が浮かんだ。いつも困ったとき最後にこの先生を頼りにしていたことを。いつも最後の砦のようにハリをうってもらったことを。しらぬ間に治っていたのを深く考えようともしていなかった。だから二度と針うちには行かぬだろうと決心していたのだった。
すぐに電話を入れて11時に予約した。10時半家を出て東バイパスへとハンドルを握っていた。車のハードからは佐野元春のバラード曲が流れていた。この冬空といまのぼくの気持ちに共鳴するものがあった。ロック調の速いテンポの多い中ではめずらしいスローテンポの曲がいやにしみじみと耳に響いていた。なんども聞いていた曲だが曲名は知らなかった。画面を見ると「彼女」とあった。いそいで歌詞を聞き取ろうと耳をそばだてた。
引き潮のように
すべてが遠のいてゆく
影の中に残されて
彼女の歌はもう聞こえない
燃える夜を貫いて彼女を愛していた
耳に残るささやきは
幻のように繰り返す
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
ベッド二つ壁側に置かれた、10畳くらいの昔の田舎の診察室を思い浮かべた。
うつ伏せになって足を伸ばしていると、やわらかい指先でふくらはぎの患部をそっと触れただけで、患部の状況を適格に指摘してゆくのにはいつもながら驚きだった。30分近く静まり返った部屋でハリをうっている先生の様子を想像しながら目をつぶり、ときどき顔をしかめた。
帰りがけ、二三回くれば治るでしょうとこともなげにおっしゃった。